角田光代34暮らしカケラの冷え冷え好き本の人たちは冷たい食べものが好きすぎると、個人的に思っている。世界各国を旅してみても、こんなに冷たい食べものが充実している国はないのではないか。日本の夏より暑い地域はいっぱいあるが、ではそこで冷たい料理が充実しているかというと、そうでもないように思う。 たとえばインド。ライタというヨーグルト味のサラダは有名だけれど、そのほかは? と考えてもあまり出てこない。ネットで調べると、冷たいカレーというものもあるそうだけれど、これはインドで実際に食べられているのか、ちょっと疑問だ。ちなみに私がインドを旅した際、どの地域でも冷たい料理はなかった。冷めた料理ならあったけれど。冷やし中華は中国には存在しないのに鑑みると、先に挙げた冷たいカレーや冷やしトムヤムクンも、日本独自のものではないかという疑問が拭えない。 各国の冷たい料理もすぐに広まる。ビシソワーズも冷麺もガスパチョも、今ではだれでも知っているしコンビニエンスストアでも手に入る。 それに、日本の人はなんでも冷やす。おでんも冷やすし茶碗蒸しも冷やす。焼き芋も冷やすし、しゃぶしゃぶも、ラーメンも冷やす。お茶漬けも冷やし、天丼もかつ丼も近ごろは冷やしているらしい。冷やさずには気がおさまらない国民性なのだろうか。っとも暑い国のひとつとされるマリ共和国でも、冷たい料理は食べなかった。マリの場合は取材旅行で、各地の食堂にいけたわけではないので、かなり限定的な知識しかないけれど、冷えたものといえばコー 日本の冷たい食べものの豊富さは、各国と比べものにならないと私は思っている。そうめん、冷やし茄子、冷や汁、煮こごり、冬瓜料理など、伝統的な和食にも冷やした料理は多い。それらは常温や冷めた状態ではなく、きんきんに冷やす。年の夏、私は本気で気候変動を案じたほどの暑さだったが、今年はそれを上まわって暑かった。外出先なら冷たいうどんやそばを食べて「生き返る」と思い、自宅でも冷たい麺料理を作り続けた。昨年の夏、私photo・T.Tetsuya昨も日ラやファンタだけで、それらにありつけると生き返る思いがした記憶がある。 タイや台湾では冷たい食べものはデザートには多いけれど、食事にはあんまりない。冷やしトムヤムクンはタイ発祥の食べものなのか疑問だし、台湾の涼麺は冷え冷えというよりも常温だ。1UR PRESS vol.83
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