その前に、まずは収穫作業。再び養殖場に向かい、食べごろに育ったバナメイエビを網ですくう。エビフライが大好物という3年生は、エビが飛び跳ねるのに驚いた様子。生き物のパワーに少々たじろぎながらも、全員で無事に収穫を完了。トロ箱に詰めたら台車に載せて、団地商店街の「ちーさん家」まで運んでいく。 店ではオーナーの大西智恵子さんが出迎えてくれた。一人ずつ、まず名刺を差し出してあいさつしてから、提案書を見せてエビをアピール。その結果、すべてのエビをお店で買ってもらえることになった。 無事に任務を終えた子どもたち。最後は「ちーさん家」特製のお弁当が待っていた。もちろんおかずは団地で育った大きなエビフライ。新鮮なエビは、頭からしっぽまでおいしさが詰まっていた。「ちーさん家」の大西さんは、この団地で生まれ育った。自身が子育てするようになったとき、「子どもを育てるにはここがいい」といる。「ここでは稚エビを水槽に入れて成魚に育てる中間育成を行っていますが、課題は安定供給ですね。バナメイエビはこれまで神戸市の阪急百貨店で何度か販売したことがあり、団地の方々や子どもたち向けの見学会も開催。NHKが取材に来るなどメディアにも取り上げられ、少しずつ認知度が上がってきました」と割石さん。 URの数ある団地の中で、陸上養殖を行っているのはここだけ。「だから面白い」と話すのはURの白井 伸だ。 「団地で行う陸上養殖は、持続可能なまちづくりのためのひとつの試みです。ここでエビを育てることが、団地ににぎわいを生み出し、子どもから高齢者まで多様な世代が暮らし続けられるまちになればと考えています」 それを聞いた大西さんが、団地の商店街で「エビ祭り」ができないかと提案した。「エビすくいや、エビの串焼きなんかいいですよね」と盛り上がる。これぞ「地産地消」ならぬ、「団地産団地消」。養殖エビが笑顔の花を咲かせるのを期待したい。「ちーさん家」の大西さんと、1人ひとり名刺交換してから、エビのよさをアピールしてセールス。下/「こんな大きなエビフライ、食べたことない」と子どもたちが大喜びした本日のお弁当。左/生きたエビをすくいとるのは、なかなか難しい。子どもたちは真剣だ。右/「小学校まで車が通らない遊歩道だけで行けるんです。これが団地のよさ」と話す大西さん。下/この建物が養殖場だ。団地に戻り、コミュニティーカフェを開いたという。 団地で育ったエビは、ちーさん家に定期的に供給され、お店では予約制でちらし寿司やエビフライ、海鮮パスタなどにしてお客さんに出している。「とにかく新鮮ですし、どれも好評です」と大西さん。「店のお客さんは、この団地が好きな人ばかり。養殖が軌道にのって、新多聞団地が有名になるといいな、と応援してくれています」 エビの管理を任されている割石さんは、近隣に住んでいる。定年退職後、地域に貢献できればと週3回、養殖場で水槽の確認や自動給餌機への餌の補給などを行って団地育ちのエビで地域を盛り上げたい14UR PRESS vol.83
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