UR PRESS VOL.82
2/32

角田光代33暮らしカケラの眠りの点数いぶん前からスマートウォッチを利用している。幾度か壊れて買いなおし、今使用しているものは低価格のわりにはずいぶん長持ちしている。 このスマートウォッチは歩行距離、消費カロリー数の計測、心拍数やストレスレベル、血中酸素の計測をしてくれて、睡眠時間の記録ばかりか、その質まで分析し、点数をつけてくれる。 心拍数もストレスレベルも気にしたことはないのだが、睡眠は気に掛かる。レム睡眠がどのくらい、ノンレム睡眠がどのくらい、夜に目覚めたのが何回、ということがわかるし、眠りの質に点数までつけてくれるのだから、毎朝チェックしている。間に目覚めるのは、トイレにいく場合もあるが、猫が起こしにくる場合が多い。階下で寝ているわが家の猫は明けがた四時ごろ、ふと目覚めて人間が周囲にいないことに気づき、「ちょっとひとりにしは睡眠で苦労したことがない。眠れなくて悶々とした経験も、記憶のかぎり二、三度しかないし、枕がかわっても、バスのなかでも電車のなかでも飛行機のなかでも、どんな体勢でもすぐに眠れる。ふだんの生活で眠るとき、ベッドに横になって「眠くなってきた」と思うこともない。それより前に寝ているらしい。 いったい私は、横になってから何分後に寝ているのだろうと、ふと疑問に思い、ベッドに横たわったとき時間を確認するようになった。十一時十五分、と確認して目を閉じる。翌朝、スマートウォッチで睡眠時間を調べてみると、十一時十七分には浅い睡眠に落ちている。この後も続けてみたが、平均して二分で眠っているようである。 そんなにすぐ眠れるのだから、眠りの点数もさぞよかろうと期待してしまうのだが、この点数はあんまりよくない。深夜に目覚める回数が多いとか、深い睡眠が少ないとか、この機械は告げるのである。ないでよ!」と大声で文句を言いながら二階に上がってくる。「さみしかった、気づいたらひとりですっごくさみしかった、真っ暗だし、だれもいないし!」というようなことを、人間が目覚めるまで言いながら寝室をうろつくのである。空腹ではなく、さみしさを訴えているのである。photo・T.Tetsuya夜私ず1UR PRESS vol.82

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る