武田ちよこ=文、菅野健児=撮影 2021(令和3)年4月、河川整備とまちづくりを一体的に推進するため、国と流域の県、市町のメンバーが集まり「江の川流域治水推進室」が設立された。URはこの推進室と伴走するかたちで、特にまちづくりの視点からの技術的なアドバイスや、関係者の役割分担の整理などを支援した。 推進室では約1年かけて議論を進め、2022年3月に江の川中下流域の方針、将来像や河川整備とまちづくりの具体的な計画をまとめた「治水とまちづくり連携計画(以下、マスタープラン)」を策定し公表した。 このエリアの課題はどこにあるのか。マスタープランづくりに関わった中国地方整備局の河村 昭さん(現・中国地方整備局三次河川国道事務所副所長)に伺った。 「一番は狭隘な山間地という地形的な問題があります。川沿いに連続して堤防を造るのが一般的ですが、守るべき集落が点在化していることと地形的な条件から連続した堤防整備ができないため、堤防 広島県北部の北広島町に源を発し、島根県江ごう津つ市で日本海に注ぐ江ごうの川。中国山地を貫いて流れる、総延長約190キロの中国地方最大の一級河川だ。 この中下流域は山に挟まれた狭窄地が続き、流れに沿って小さな集落が点在。ひとたび大雨が降れば大規模な水害が発生し、近年では平成30年7月豪雨、令和2年7月豪雨、令和3年8月豪雨で家屋浸水に見舞われた。特に平成30年7月豪雨では、国道の上、3~4メートルの所まで水が上がり、浸水家屋は約270戸にも及んだ。「これまでの治水対策では、堤防を造るなどのハード面の整備とまちづくりは、別々に動いていましたが、令和3年に流域治水関連法が整備され、流域にかかわる関係者が協働で水害対策を進める『流域治水』という考え方が推進されるようになりました。江の川では、その先陣を切るかたちで治水の取り組みが始まったのです」 UR災害対応支援部の重田 猛がこう説明する。川沿いの低地から高台へ、集落の5戸がまとまって防災集団移転した君谷湊。ここが令和3年の法改正後、全国初の事例だ。集落の手前に見えている大きな赤い屋根の建物が移転前の住まいで、解体が進められていた。右に見えるのが江の川。過去、何度も浸水被害を起こしてきた。中国地方最大の一級河川、江の川。たびたび水害に見舞われる中下流域では、河川整備とまちづくりを一体的に行う「流域治水」の考えのもと、治水対策が進められている。「流域治水」の先陣を切った治水とまちづくりの連携計画ハード面だけでなくまちづくりも考える島根県江の川中下流域住民合意まで粘り強く説明する広島県島根県江の川江津市13UR PRESS vol.82
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