UR PRESS VOL.79
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った。コスパはわかるが、タイパは意味が伝わりづらすぎると思ったのだ。ところがタイパはふつうに流行った。言いやすいとか言いにくいの問題ではなく、タイムパフォーマンスという感覚にぴったりくる短い言葉が、ほかにないからだろう。タイパと時短を私は混同してしまうが、厳密には違うみたいだ。短い時間でより多くの満足が得られる時間対効果のことをタイパと言い、労働や作業時間のたんなる短縮を時短と呼ぶらしい。とはいえ、時短家電を使ったりするのはタイパをもとめる行動なわけだから、厳密にはつながりあっている言葉なのだろう。そのどちらも、私はイメージしか持っていない。タイパを重視する人は映画を倍速で見るらしい、とか、スローライフの実践とは洗濯機でなく洗濯板で洗濯し、レンジも炊飯器も使わないのではないか、とか。イメージだけだけれど、そう外れてもいないんじゃないかな。私は多忙だからではなく、ずぼらゆえに、やむなく時短を取り入れている。映画はさすがに倍速では見ないが、時短家電と呼ばれるロボット掃除機も、電気圧力鍋も持っている。へんだなあ、ロボットが床掃除をしてくれているのに、郵便局にいく時間がなくなっている、洗濯ものは乾燥機が乾かしているのに、眠る時間が遅くなっていく……なんでだろう?たのである。時短は時間を食べるのではないか。あるいは、時短を実行した途端に、自動的にやることがひとつ増えているか。ならばスローライフに切り替えたら、時間は増えるのか?濯板で洗濯ものをこすっていれば、夕食を作る時間がなくなって外食になるはずだイパという言葉を聞いたとき、なんじゃそれ、と思った。コストパフォーマンスがコスパと略されるように、タイムパフォーマンスのことをタイパというのだと説明を受けたが、この言葉は流行らないだろうなと思たちの暮らしにおいて、タイパや時短の対義語は、無意味な時間や延長などではなくて、それこそひとむかし前に流行ったスローライフではないのかと思う。れどもそうして時短を生活に取り入れると、一日二十四時間のうち、数十分が何ものかにかすめとられるような気がしている。時間を余らせるために短縮したはずなのに、短縮前よりなぜか忙しくなっているのだ。この数年、ずっとそんなことを考え続け、ある疑いを持つに至っの     け私  タ1いやいやまさか。洗30photo・T.TetsuyaUR PRESS vol.79角田光代暮らしカケラ時短と幸福度

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