UR PRESS VOL.78
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経験を積んだ。「日本の職人さんたちは日本酒の手間のかけ方を当たり前だと思っていますが、麹をつくり、糖をつくり出す世界的にも稀な発酵技術、錬金術です。これほど手間をかけたものが1本1000円ほどで売られているのは、おかしいという思いがありました」日本酒の価値をもっと伝えたい、その価値を理解してもらえる人に届けたいという思いが、足立さんを独立という道へ突き動かす。その後、米栽培にも取り組み、自身の醸造所設立という夢を実現させた。開業するなら出身地の大阪で。それは決めていたという足立さん。「地元の飲食店に大阪の日本酒が置かれていないのが残念で。日本酒で大阪を盛り上げたいという思いがありました。富田団地の物件はインターネットで見つけました。天井が高く、コンクリートの無骨な感じが好み。完成した姿がイメージできたので即決でした」富田は、江戸時代初期には大阪随一の酒どころで、20を超える酒蔵があった地域。水が良質なのも決め手になった。夫妻ともに団地暮らしの経験があり、団地になじみもあった。保証金、礼金が必要なく、スケルトン渡しのため、他の店舗では必要な解体費が不要だったのも、初期費用が抑えられてありがたかったと足立さんは話す。足立さんが造るお酒は、ワイングラスに合うような、フレッシュですっきりとした清らかな味。お店では実際にワイングラスで提供している。この場所で酒造りを始めたばかりで、まだ目指す味に到達できていないと本人はいうが、寄せられる期待、評価は高く、造るお酒はすぐに売り切れてしまう。団地の住民には麹あまざけが人気で、あまざけスムージーを飲みに来る年配の方、量り売りを求めに来る30〜50代の方などが多いそうだ。苦労はいろいろあると思うが、軽やかにしなやかに乗り越えていきそうな足立さん。その自然体で丁寧な姿勢がお酒の味に反映されていることは間違いない。若い人の挑戦を応援するような雇用の場をつくりたい。将来はスイスで日本酒を造りたいという夢も抱く足立さん。団地内の8坪ほどの小さなお店だが、その扉は世界に向けて開かれている。酒造りで大阪を盛り上げたい22UR PRESS vol.78上/お酒に合うオリジナルのおつまみメニューもある。キイチゴのクラフトサケは、グラスメーカーとコラボして作ったハンドメイドグラスで。右/人気の麹あまざけのスムージー。こちらはイチゴ。季節によってフレーバーが変わる。660円。☎090-9531-3304営営11〜15時(土日は〜20時)㊡火・水曜上/この日、タンクで瓶詰めを待っていたのは輸出用の清酒。足立農醸のお酒は1本3千円台から3万円台まで。下/大阪のベッドタウンとして人気の高槻市にある富田団地(2647戸)。

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