たことを主人公に投影したいと思いました。それに加えて、音響効果的な環境音や日常音に焦点を当てたいという思いもありました。風の音や波の音が登場人物たちの心情を物語ったり、音楽そのものが、彼らの言葉となって観客に届く映画を目指しました。その点でも、平塚の自然とまちと建物が共存している雰囲気は本当に大切だったと思います。バンド演奏では、ベースの音だけでなく弦の鳴りにもこだわりました。非常に細やかに作ることができて、今の自分が考えられる音の表現はすべてやりきったと思います。入口としては、ラブストーリー、音楽映画のサクセスストーリーですが、音の表現の可能性と、人間関係の豊かさの表現を懸命に考えて作った映画です。個々の登場人物の人間関係に対する不安や緊張にアプローチしたいという思いも抱えていました。自分自身と他者の間には、線引きのようなものがあると思います。わかりあえないさみしさや、傷つきたくないために閉じる心。そこに一歩踏み込んで、他者を知ることや他者を受け入れることを丁寧に描きたいと思っていました。その先で「一緒にいる」という選択をするのか、「ひとり」を選ぶのか。そのどちらをも肯定したい思いがありました。主人公の清澄がひとりで孤独に作っていた音楽が、岸本潮■■に寄り添おうとしたことで変化していく。潮と一緒に歩むことで、だんだんと人との関わりが増えて、音楽そのものも広がっていく。それらの音の変化、こだわった音を、ぜひ映画館で聞いていただきたいと思います。表現の可能性を追究した音と人間関係へのアプローチを『バジーノイズ』 ■ 26UR PRESS vol.77主人公である清澄は、集合住宅の管理人をしながら、「音楽」だけを生きがいに暮らしていた。人と関わることを必要とせずにいた清澄の生活に、ある日、彼の音楽に心を震わせた上の部屋に住む潮が関わるようになり、2人の世界が大きく変わっていく。原作は、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館刊)連載の『バジーノイズ』(むつき潤)。DTM(デスクトップミュージック)を軸に、注目のクリエイター&キャストが集結して、行き先の見えない若者たちの出会いと、末来を見つける姿を描いた、新時代の音楽物語。川西拓実(JO1)、桜田ひよりをはじめ旬のキャストが、今を生きる若者たちのリアルを体現する。ミュージックコンセプトデザインをYaffleが手がけたことも話題に。●5月3日(金・祝)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 配給:ギャガ映画『バジーノイズ』映画
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