UR PRESS VOL.77
2/36

ような気になるのは、東京にくらべて町の規模がちいさいからだ。地下鉄は便利だけれど、間隔が短いので一駅ぶん歩いても五分とかからない。だから、路線図をチェックしつつ、乗り慣れない地下鉄を乗り換えて目的地を目指すよりは、歩いてしまったほうが、私のような短期旅行者には手っ取り早いし、観光にもなる。今回は自由時間があまりなくて、ホテルから仕事のある場所まで、主催者とタクシーの   自 こ仕 1で移動することが多かった。タクシーの窓から、凱旋門やエッフェル塔が見えると、いちいち「おおー」と声が出てしまう。なんとパリっぽいのか、という感歎の「おおー」である。てくれたのであるが、そのとき向かったのがサン=ジェルマン=デ=プレ地区で、そこに着いたときもやっぱり「なんてパリっぽいのか」と私は思った。色合いと高さの統一された古い石造りの建物群、店の外にテーブルを並べたカフェ。「パリって本当にあるんだ」と思ってしまうほどのあまりにパリっぽさに、なんだか嘘くさいとすら思った。凱旋門やエッフェル塔もそうである。非常にパリっぽく、パリっぽすぎるからこそ嘘くさい。だからなんだか、それらの前で写真を撮る気になれない。合成写真のように見えるのではないかと、ちらりと思ってしまうのだ。が、ルーブル美術館が、シテ島が見えてくると、「いやいや、もっとパリっぽい!」と心のうちで叫んでしまう。パリって、いかにもパリ然とした光景が至るところにあるんだなあと、今回あらためて妙な感動をした。その町らしさがはじめて訪れた十五年前から変わらないことにも。昨今の東京は、その旅行者の数にいちいち驚くけれど、旅行者たちはどこを見て「東京っぽい」と思うのだろう。渋谷のスクランブル交差点だろうか。東銀座の歌舞伎座?事があって、三日間と短い滞在ながらパリにいった。パリは五、六回いったことがあるが、よく考えたらすべてが仕事がらみで、ゆっくりと滞在したことはない。それでもなんとなくパリの町を知っているの「パリっぽさ」について、私はしみじみと考える。私がはじめてパリを訪れたのは二〇〇九年。空港で乗り換え時間が八時間ほどあって、それなら町にいって何かおいしいものを食べようと、パリにくわしい同行者が連れ出し由時間が少ないので、朝早起きしてランニングウェアに着替え、ラン観光をしたのだが、サン=ジェルマン=デ=プレ地区に入ると「おおー、パリっぽい」と今でも思うし、そこを過ぎてセーヌ川があらわれ、チュイルリー公園28photo・T.TetsuyaUR PRESS vol.77角田光代暮らしカケラその町らしさ

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る