UR PRESS VOL.76
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みんなで支え合って生きているところが描かれていて、その世界観が好きで影響を受けました。私は失敗するのは恥ずかしいし、そういうところを見せたくない完璧主義で、それを打破したかったんです。落語を知るうちに失敗してもいいと思えるようになって、前向きになれました。芝居をするときも、思い切ってやっちゃえ、恥かいても笑ってもらえればそれでいい、経験して学んでいこうという気持ちに変わりました。落語も芝居も演じるものですが、違うところと似ているところをどのように感じていますか。ベテランの落語家さんが、すごく女性らしく見えたり、子どもに見えたりします。声色を作っているのでもありません。ちょっとした口調やテンポ、所作で見せるんです。人情噺はしっかり聞かせますし、間をとって表情で見せる話もあります。気づきがたくさんあって勉強になります。私は落語を2回やらせていただきました。南■亭■市■にゃおの高座名で(笑)。やってみたら芝居とは全然違いましたね。 ■■■          4UR PRESS vol.76落語通としても知られ、『今日も寄席に行きたくなって』という本が好評です。どのような思いで書いたのですか。エッセイの連載をしませんかというお話をいただいたとき、私が一番、熱量をもって書けるのは、好きな寄席の話だと思いました。私の中で、落語を多くの人に知ってもらいたい、面白さを伝えたいという気持ちが大きくなっていたのです。 17〜18年ぐらい落語を聞いているので、知識もある程度はありました。それらを押しつけがましく書くのはやめようと、そこには特に気をつけました。私自身がどう思ったのか、自己体験とつなげて書いたので、落語って難しくないよ、身近にあるよ、と感じていただけたらうれしいです。落語好きの熱量が強めの本になったと思っています(笑)。高校生から落語を聞き始め、大学の卒業論文は「落語における名人論」。落語の面白さはどういうところですか。落語に興味をもったきっかけは、高校のときに読書感想文の課題で、佐藤多佳子さんの小説『しゃべれどもしゃべれども』を選んだことです。主人公の落語家のもとに、人間関係がうまくいかない、学校でいじめられる、コミュニケーションに悩んでいるといった人たちが集まって、落語を通して成長していく物語です。高校1年生のときは人見知りで、人に話しかけられなかった私の境遇とすごく近くて、不器用な彼らの気持ちが痛いほどわかりました。しかもその頃は女優の仕事を始めたばかりで、大人の方とどのように接したらいいだろうと悩んでいました。撮影現場では本をずっと読んで、話しかけないでオーラを出していたほど(笑)。そういうときに読んだので、私も落語で変われるかもしれないと思い、落語を聞き始めたら、引き込まれていったんです。しくじった人や、ダメな人を、笑いにして肯定していくのが落語です。出てくる人物が実に温かい。ダメな人がいても周りの人たちが笑って受け入れます。さん俳優南沢奈央失敗してもいいんだと前向きになれた小西恵美子=文、菅野健児=撮影

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