街に、ルネッサンス UR都市機構

URまちの暮らしコンペティション 第1回ウェビナー当日の様子

「テーマ:住宅・団地設計やスターハウスの歴史を紐解く」

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講演者/パネリスト

伊藤 功(千葉大学客員准教授/窓建コンサルタント)
志岐 祐一(東京都立大学非常勤講師/日東設計事務所)
海老澤 模奈人(東京工芸大学教授)

モデレーター

大月 敏雄(東京大学教授)

■イントロダクション・コンペ概要

大月 「URまちの暮らしコンペティション」が開催されます。テーマは「スターハウスの未来(さき)にある暮らし」です。このコンペは実に難しく高度で、スターハウスを使った提案が求められています。コンペというのは企画力・構想力・デザイン力など色々な力が試されますが、このような抽象的なことを求められるコンペにおいては情報収集力が非常に重要です。この時間は赤羽台団地、スターハウス、世界の団地の歴史という観点からみなさんに情報を共有したいと思います。

■パネルディスカッション

第一部 スターハウスは実際の住み心地はどうなのか

大月  スターハウスに住んでいる方にお話しを聞くと、必ずしも、すごく住み心地が良いというものではなかった。実際、赤羽台の住民の方にはスターハウスは住み心地が悪いと言われたこともあります。カーテンを開けるとお隣のリビングが丸見えだからでしょうか。
伊藤さん、志岐さん、海老澤さん、実際の住み心地について調査はされましたか。

伊藤  スターハウスに限定した居住者意識や評価の調査はしていなかったのですが、「住みにくい」や「空き家が多い」といった話を聞くことはなかったです。お客さん同士の目線の合わせないような暮らし方など、上手く付き合いながら暮らしていたのではないかなと思います。しかし、今のマンションのような片廊下の住戸になれている方は住みにくいとおっしゃるかもしれません。

志岐  私も居住者に話を聞いたことはないのですが、テレビを置くなど、当時の暮らしを再現しようとすると、壁面が少ないので、置きにくかった印象はあります。先ほど大月先生がおっしゃっていたように、昭和30年代頃は家具が少なく、そこから増えてきました。生活スタイルが変わる中で持て余してきたのかなとは思います。一方で、これから人口減で住む人が減ってくる中で、新しい住み方を考える可能性はあると思います。また、市浦さんがおっしゃっていた通り、配置を工夫しないとお見合いが起こってしまいますよね。赤羽台のように崖の下に向かって視界が開けるような配置は良いのではないでしょうか。これは敷地とセットになる問題なので、どこでもできることではないと思います。


大月  そうですね。福岡のダブルスターハウスも配置を気にしてつくられていますね。海老澤さんはいかがですか。

海老澤  私も住民に話を聞いてはいませんが、先ほど志岐さんがおっしゃっていた、10年くらいしか続かなかった例を聞くと、やはり何か問題があったのでしょうね。
実際に行ってみると、屋外空間が広くて開放的で、外からみた姿はかっこいいと思ったのですが、先ほど私がお話したジードルンクと比べると、表と裏がないと感じます。住人にとって逃げ場がないという点では問題は少なからずあったと思いますが、でもそれが何か新しい活用方法になればよいですね。

大月  ありがとうございます。
明け透けな部分は弱点かもしれませんが、これからのことを考えると、住む人の価値観が変わって、本当に見せたくない部分だけ隠すという暮らしになってもよいかなと思います。若者に流行っているシェアハウスは、自室以外は見たり見られたりといった暮らしになるわけですよね。そういった関係を、柔軟な考えを持った若い人たちに提案してもらえたらよいと思います。人間の感覚は変わっていくものだということを、若い人の提案に期待したいです。

第二部 住民の誇りの形成について

大月  昔住んでいた人はスターハウスをなんとも思っていないかもしれません。しかしスターハウスは登録文化財になりました。ジードルンクも世界遺産になって急に人気になりましたよね。私がジードルンクを訪ね歩いた時、住んでいる人が熱を持って説明してくれました。住んでいる人のプライドはとても大切だと思っていて、昔の公団に住んでいた人たちはスターハウスに対して何も思っていないかもしれませんが、あることがらを仕掛けることで、団地にスターハウスがあることに誇りを持つこともあるのかもしれないと思っています。海老澤さんは歴史家の立場から、人間が培ってきた環境における誇りの形成について、コンペに期待したいことはありますか。

海老澤  歴史の立場から言うと、古いものは残してほしい。ただ、今回のコンペでは好きに活用してよいので、どのように捉えるかが大切です。大月さんがおっしゃったように、人の記憶のようなソフトな面から発展させて、スターハウスとどのように結びつけるかという視点もあると思います。
文化財としては残してもらいたいですが、意外性のある提案があると良いですね。

大月  伊藤さんは、住む人の誇りが高まる仕掛けについてどうお考えですか。

伊藤  私は、東京のひばりヶ丘団地の設計に携わり、スターハウスを残すために苦労した経験があります。当時、除却が決まっていましたが、工事事務所で活用することで、10年後に評価しようとなりました。また、耐震に問題があったので、二層目と四層目の床を抜いて軽量化しました。現在は管理事務所として使っているのですが、吹き抜けを作ったことでスターハウスの3面開口の良さが出たと感じています。
コンペに参加される方々や学生の方々にも、そういった自由な発想で、赤羽の津端さん以来培ってきた理想の団地空間像を継承してほしいです。

大月  住んでいる人や地域の誇りという点について、志岐さんはどうお考えですか。

志岐  住んでいる人が建物のよさをわからなくなっているというお話は、確かにそうだなと思います。大月さんと調べてきた同潤会もそうでした。昔の話は知らないとおっしゃる住民の方が、次来た時には誇りを持って話してくれることもありました。
コンペですから、伊藤さんがおっしゃった通り、床を抜いたことで新しい価値が生まれたような発想もあると思います。三面が開けていることは、大人数で住むには大変かもしれませんが、開けた部分と閉じた部分の組み合わせを家の中でやるとしたら面白くなりそうです。
それを見た住民の方が、新しい価値を見出してくれるかもしれません。
オリジナルで残すものもあれば、改良して残すものがあってもよいと思います。
あるものに新しい価値を見出して共有することが大切です。そして、それはものを見せることで伝わると思います。

第三部 コンペにむけて

大月  スターハウスは、戦後すぐの世代が、戦前の人びとがなし得なかったことをやっていかなければならないという心持ちの方々が設計しています。そういった人たちが前人未到なことをやっていく。これはすごく重要だと思います。世の中がいまおこなっている評価の仕方だけに沿って物事を進めることはよくないと考えています。世の中も人も評価も変わります。日本人の行動様式もここ2、3年で変わっています。今の赤羽台やスターハウスの特性をどう見抜き、50年,100年後に何が大事になっていくかを見据えて提案していくことが大切だとおもいます。新しい形がたまたま出てきて、世の中の考えをリードするという場面が、建築やまちづくりではたくさん行われてきました。そこを評価しながら、考えながら取り組んでいただきたいです。今の評判でないところを狙っていただければよいコンペになると思います。
 今日は、専門家の方々から、様々な観点で赤羽台のスターハウスを中心とした集合住宅の歴史について学んでいただきました。これを糧にしてコンペに挑んでいただきたいと思います。

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