街に、ルネッサンス UR都市機構

多摩ニュータウン 永山団地 東京都多摩市

URPRESS 2018 vol.54 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

1.多摩ニュータウン永山団地 東京都多摩市
巨大団地の全身に、新しいコミュニティーという血液が流れ始めた

昭和40年代、日本に誕生したニュータウンの先駆けのひとつ、多摩ニュータウン。
誕生から50年近い歳月を経て、最近はニュータウンの少子高齢化が顕在化。
URは行政やNPO、それに物流会社とも連携し、新たな元気の種を巨大な団地にまき始めている。
そんな多摩ニュータウンの「今」を訪ねた。
永山団地商店街が毎年開催する「さつき祭り」には、子ども連れから高齢者までたくさんの人々がやってきて、団地でのひと時を楽しんでいた。

全国初の「ネコサポ」が団地をサポート

5月の土曜日。新緑がまぶしい多摩ニュータウン永山団地商店街には、子どもからお年寄りまでたくさん人が集まっていた。この日は商店街主催の「さつき祭り」。採れたて野菜や手作りドーナツのコーナーには人があふれ、ベンチでは子ども連れのママたちが楽しそうに談笑している。

それらの人をかき分けながら、宅急便の小さな制服と帽子に身を包んだ子どもが、お店に荷物を届ける姿が目を引いた。商店街にある「ネコサポステーション永山」が企画した「こども職業体験」のひとコマだ。住民同士の接点が増えれば、そこから新たな交流が生まれるかもしれない。そのきっかけづくりを目的に、誰もが気軽に参加できるイベントを定期的に開催している。

ネコサポステーション(以下、ネコサポ)はヤマトグループが2016(平成28)年4月にスタートさせた全国初の暮らしをサポートする拠点。コミュニティーの活性化を目指すUR及び多摩市と連携、国土交通省のモデル事業にもなっており、多摩ニュータウンの永山団地と貝取団地の2カ所にある。

ヤマト運輸で地域共創プロジェクトを担当するプロジェクトマネージャーの神南美和さんは、設立のいきさつをこう話す。
「わが社は物流で培ったノウハウやグループの経営資源を生かして、地域社会が抱える課題解決のお手伝いができないかと考えてきました。多摩ニュータウンに着目したのは、少子高齢化という大きな問題を抱えた巨大なまちとして、コミュニティーのあり方を探る上で示唆に富んだ地域だからです。団地再生につながるコミュニティー拠点をつくり、このエリアの課題を解決するお手伝いをしたいと、ネコサポを立ち上げました」

イベントを開催して徐々に団地の皆さんと知り合い、ネコサポを認知してもらえるようになると、団地の人々が求めているものがわかってきたという。

見えてきた団地の実情求められるサービスとは

ネコサポは、(1)コミュニティー拠点としての機能のほかに、(2)一括配送 (3)買物代行 (4)買物便 (5)家事サポートの5つのサービスを柱としている。

ヤマト運輸多摩主管支店でネコサポを担当する渡辺桂祐さんは、「一人暮らしの高齢者は買物に困っているのではないかと始めた『買物代行』ですが、実際には、買ったものをネコサポに持ち込めば、スタッフが自宅まで届ける『買物便』を利用される方が多いなど、当初考えていたものと異なる実情が、少しずつ見えてきました」と現状を分析する。

関連会社のヤマトホームコンビニエンスが行う、エアコンの清掃や網戸の張り替えといったプロの仕事も喜ばれている。そこから「ついでにちょっとこれも」と頼まれることも増えてきた。

「ネコサポを始めて見えてきた今の永山団地は、外から見ていたときよりも元気な方が多い印象です。また、団地の中には小さなコミュニティーがたくさんある。しかし、それを貫く横串がないということもわかってきました。これからもネコサポからさまざまな情報を提供して、コミュニティーづくりや、コミュニティーをつなぐきっかけになればと考えています」

と渡辺さん。「ネコサポに立ち寄るようになって、高齢の母がとても元気になりました」と利用者から喜ばれるなど、スタートから2年たち、少しずつ手応えを実感しはじめている。

「さつき祭り」にあわせて「ネコサポ2周年感謝祭」を実施。宅急便のセールスドライバーになる「こども職業体験」は大人気だった。
ネコサポステーションのキャストとコンシェルジュ。前列中央が渡辺さん、 後列右が神南さん。ネコサポステーションのキャストとコンシェルジュ。前列中央が渡辺さん、
後列右が神南さん。

多世代が安心して暮らせる団地を目指して

東京都西南部の八王子市、町田市、多摩市、稲城市にまたがる東西14キロ、南北2~3キロに広がるのが多摩ニュータウン。深刻な住宅不足を補うために、昭和30年代からURの前身である日本住宅公団が計画を立て、多摩丘陵を切り開いてつくったまちだ。1971年に入居が始まると、日本の高度経済成長と並行するように人口は増え続け、最先端の都市型ライフスタイルがここで営まれてきた。

現在URが管理する団地は、永山、諏訪、貝取、豊ヶ丘などの約1万1000戸。計画的に配置された公園も多く、緑に包まれた落ち着いた街並みは魅力的だ。

だが、ニュータウンの成熟とともに、2000年頃から地域の少子高齢化が叫ばれるようになってきた。
「多摩市全体の平均よりもニュータウンの高齢化率が高く、団地の人口減少によるコミュニティーの希薄化も危惧されています。多摩はニュータウンの先駆けとしてネームバリューがあり、象徴的な存在。

その対策に、URをはじめ行政や鉄道会社はもちろん、企業やNPOなどが動き始めています」

大きく成長した木々に囲まれた永山団地。
多摩ニュータウンの中で最初に開発が行われた団地だ。

多摩ニュータウンの現状をこう説明するのは、URで多摩エリアを担当するウェルフェア推進課長の福嶋健志。URでは地域の活性化を目指し、14年に永山団地などを地域医療福祉拠点団地とし、再生計画を始動させた。

具体的には、住戸内と共用部のバリアフリー化を促進し、高齢者の相談を受ける生活支援アドバイザーを2名配置。永山と貝取団地には、先に紹介したネコサポや、後述の多摩市の地域包括支援センターと見守り相談窓口を誘致して、高齢者の孤立を防ぎ、団地に多世代コミュニティーをつくる取り組みを推進している。

「近くに親や子どもが住んでいれば家賃を割り引くURの近居割制度も使って、子育て世代を呼び込み、多世代コミュニティーの再生を目指したい。ここで育った人は団地のよさを知っているので、その世代に戻ってもらえるような生活スタイルを提案したいですね」 と福嶋は言う。

さまざまな取り組みを組み合わせていくことで、多世代の人々がゆるやかにつながりながら、安心して暮らせるまちをつくっていけるのではないか。
「URは多方面との連携を通して、その実現を目指していきます」
力強く福嶋はそう話す。

「大きな高齢化の波は止められないが、多世代の人が安心して暮らせる団地を目指す」と話すURの福嶋。

「福祉亭」は朝10時からコーヒーなどの喫茶メニューを用意、昼はワンコイン(500円)ランチを提供する。ボランティアスタッフを束ねる理事長の寺田さん(上)は、「友人と地域活動があり、この団地を離れなかった。それが自分の場づくりにもなっていた」と話す。

地域包括支援センターが商店街にやってきた

17年10月には、「多摩市中部地域包括支援センター」と「見守り相談窓口」を併設した施設が、永山団地商店街に引っ越してきた。

センター長の木下公大さんは、小学4年から19歳まで永山団地に住んでいた。子どもの頃の商店街は、「約束しなくても、必ず友達に会える場所」。だが、当時200人近くいた同級生のうち、現在も団地に住んでいると木下さんが確認できたのは、たったの1人。団地の変わりようを肌身にしみて感じているという。

市役所の近くにあったこの施設を永山団地の中に移したのは、市民がアクセスしやすい場所につくるべきだという考えがあったから。それに「高齢化のスピードが日本一といわれる永山団地の真ん中にこそ、この施設が必要です」と木下さん。

入居する際、商店会長には、「お役所的な対応をする所なら、受け入れないよ」ときつく言われた。木下さんは待つのではなく、積極的に外に出て65歳以上の一人暮らしのお宅を訪問し、この施設の利用をアピール。商店の呼び込みよろしく、前を通る人々にも声をかけて利用を促した。

「その結果、自転車がなくなった~とか、お父さんと離婚したい!なんていう話まで持ち込まれるようになりました。そういう話をする相手がいなかったんですね。そこから顔が見える相手との信頼関係が生まれ、いろいろな話が伺えるようになりました。支援が必要なことに気付いていない人がいたり、相談先がわからずに、そのままになっていたことがやっと聞けたという人も。団地に移ってきて正解でした」

木下さんは、「団地が抱える問題は、小学生から高齢者まで、ここに住む人同士が手をつないでいかなければ乗り切れない。その力をつなぐ役目を果たしていきたい」という。

ネコサポや福祉亭、それに地域包括支援センターと見守り相談窓口などの利用を通して、多摩ニュータウンに住む人々の間に新たな出会いが生まれ、それをきっかけにコミュニティーが育まれていく。巨大なニュータウンの全身に、新しい血液がゆっくりと確実に行き渡り始めている。

地域包括支援センター、見守り相談窓口のスタッフたち。センター長の木下さんをはじめスタッフたちが積極的に外に出て、センターの存在をアピールしたおかげで、相談件数が増加。「ていねいに対応していくことがテーマ」と話す。

PICK UP

団地内外の人々がここに集い、ゆるやかにつながるおいしい店

「moi bakery」

「自分の好きなパンを自分で焼いて、それを皆さんに喜んでもらえればうれしい」
そう静かに語るのは、貝取団地や豊ヶ丘団地の近くにある「moi bakery」の店主、杉山智子さん。

自家製天然酵母を使ったハード系パンや、北海道産の小麦とゲランドの塩、水と酵母のみで作る山形食パンなど、店頭に並ぶパンはどれもシンプルで真っ正直な味がする。
このパンを求めて団地内外からお客さんがやってくる。自身も3人の男の子の母である杉山さん。子育て関連やクラフト系などmoi bakery企画としてここでイベントも開催している。
「顔なじみになったおばあちゃんが、お店におはぎを持ってきてくれたことがあります。そんなことがうれしいですね。うちのパンをきっかけに、ここで団地の人も外の人も、ゆるやかにつながれる。パンを通してそんなつながりが生まれればいいなと思っています」

「moi bakery」

多摩市豊ヶ丘5-5 JS八角堂 ☎080-8809-4548
水~金曜8時30分~15時、
第一土曜のみ9時30分~17時(ブランチメニューを提供)
(休)日~火曜、第一以外の土曜

「moi」とはフィンランド語で「やぁ!」というニュアンスの挨拶。
杉山さん一家も多摩ニュータウンの貝取団地で暮らしている。

店内には買ったパンをその場でいただけるスペースがあり、イベントも開かれる。こだわりのコーヒーもあり、自然とみんなが集う場所になっている。

動画

UR PRESS Vol.54 多摩ニュータウン

武田ちよこ=文、青木 登=撮影

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