街に、ルネッサンス UR都市機構

未来を照らす(13)女優 寺島しのぶさん

URPRESS 2017 vol.50 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


一期一会の出会いを大切に挑戦を続ける女優でありたい

数々の賞に輝き、国際的な評価も高い実力派女優・寺島しのぶさん。
この5月には、フランス人の夫との間に生まれた長男の、歌舞伎初お目見えを見守った。
母として妻として、そして女優として忙しい日々を送る寺島さんに、子育てや仕事への思いを伺いました。

女優 寺島しのぶさん

てらじま・しのぶ
1972年生まれ、京都市出身。
父は歌舞伎俳優の尾上菊五郎、母は女優の富司純子、弟は歌舞伎役者の五代目尾上菊之助。
青山学院大学在学中の92年に文学座に入団。
96年に退団後、舞台、テレビドラマ、映画で活躍。
2003年公開の映画『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で第27回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞などを受賞。
07年、日本在住のフランス人クリエイティブディレクターであるローラン・グナシア氏と結婚、12年に長男を出産。

4歳の長男が歌舞伎初お目見え

今年の5月は、4歳になる息子の歌舞伎初お目見えで、大忙しの1カ月でした。私の父である尾上菊五郎とともに、歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」の「魚屋宗五郎」という演目で、酒屋の丁稚・与吉を演じました。本人はいたって平常心のようでしたが、母親の私のほうが心配で心配で、心身ともに疲れました。

公演期間中は、1泊3日の弾丸ツアーでカンヌ国際映画祭に出席したのを除き、毎日歌舞伎座に通いました。着物を着てお客さまにご挨拶をするのですが、これを母(女優の富司純子)は毎月のようにやっているんだと思うと、あらためてすごいことだなって感じました。歌舞伎の家は、舞台で頑張っている役者と、劇場で支えている妻の共働きだなと思いました。

息子本人は歌舞伎が大好きで、2歳のころから昼夜通しで歌舞伎座の舞台を観ても飽きなかったんです。今回もとても楽しかったようで、「次はいつ出られるの?」なんて言っています。将来は、と聞かれることも多いのですが、自分の仕事も含め、どこまでサポートできるか未知数ですし、臨機応変に、いまはその都度その都度、考えていこうと思っています。

今年のカンヌ国際映画祭の批評家週間部門で上映された、寺島しのぶさん主演の映画『Oh Lucy !』(平柳敦子監督)。日本では今秋公開予定。

いろいろな世界を知ってほしい

子どもができてから、仕事との切り替えが早くなりましたね。以前は無意識のうちに、常にそのとき演じている役のことを考えていたり、私生活でもその役になりきっていることが多かったのですが、いまは息子に「お母さん」と呼ばれると、母親に戻らざるをえないです。健全になったと言えるかもしれませんね。
セリフを覚えなければならないのに、疲れて一緒に寝てしまうので、幼稚園に迎えに行くまでの3時間で覚えようとか、時間を有効に使うようになりました。以前のように、好きなときにセリフを覚える生活もいいなとは思いますが、子どもができたことは本当にありがたいので、自分の中で切り替え、集中するようにしています。

子育てで大切にしているのは、いろいろな人に会って、さまざまな世界を知ってもらうということです。歌舞伎は大人の世界ですが、幼稚園には幼稚園の世界がある。いま住んでいるマンションのコミュニティーもあり、習い事のお教室でもまた違う。それぞれの輪のなかで自分がどういう存在であるかを自覚し、いろいろな価値観を身につけてほしい。そして、いずれは自分でどういう生き方をするか選択できる人間になってもらいたいと思っています。

うちの家庭は父親がフランス人、母親が日本人と、異文化そのものです。私がいないと、息子は父親のローラン(クリエイティブディレクターのローラン・グナシア氏)とフランス語でしゃべっていますし、私とローランは英語で会話するので、英語も話せます。すごく羨ましい環境だと思います。

毎年、息子はバカンスでフランスに行っているので、フランスのルールも自然と学んでいます。フランス人は休むために働いているといっても過言ではなく、ローランも5月くらいから「バカンス、バカンス」と言っています(笑)。日本人は勤勉だから「そんなに休んで大丈夫かな」と思いますが、実際にフランスに行ってみると、バカンスの間は起きたい時間に起きて、食べて寝るだけ。究極にシンプルな時間を過ごすので、すごくリフレッシュできます。ただ、私は昨年、今年と忙しくて行けていないので、来年こそは行かないと、離婚の危機ですね(笑)。

暮らしている場所のコミュニティーも、子どもの成長にはとても大切だと思います。いま住んでいるマンションは子どもが多くて、しょっちゅうお友達のおうちに遊びに行っては、一緒にお風呂に入ったり、お泊まりもしています。中庭があるので、鬼ごっこやかくれんぼ、ザリガニ捕りなど、汗をかきながら遊んでいます。親同士もすごく結束していて、子どもの送り迎えを助け合い、情報交換も頻繁です。適度に距離をとりながら、きちんと輪ができている。自分より小さい子の面倒を見て、お兄ちゃんたちには自分ができないことを習うなど、兄弟がいない息子にとってすごくありがたい環境だと思っています。

人との出会いが挑戦につながる

芝居に関しては、なんでもかんでも挑戦しますというのではなく、時間的にも物理的にも自分の状況に合ったときに、良い作品を逃さないようにしています。そして、コレと決めたものには入魂します。

出演させていただいた作品では、大切な方々と出会えました。映画でいえば、車谷長吉さんの『赤目四十八瀧心中未遂』という作品での荒戸源次郎監督、『ヴァイブレータ』で脚本家の荒井晴彦さん、廣木隆一監督とご一緒できたこと、そして『キャタピラー』の若松孝二監督。舞台では蜷川幸雄さん……。ディープで面白い方たちとお仕事できたのが、かけがえのない経験になっています。

みなさん、「いいよ、いいよ」という感じではなく、なんとか私の違う顔を引き出そうとしてくださったり、いまだに挑戦させ続けてくださる。たとえば、『ヴァイブレータ』では、廣木監督がリハーサル中も内緒でカメラを回していたんです。そこで、わざと挑発的なことを言って、「この野郎!」と怒っている顔を撮られていたこともあります。それがすごくドキュメンタリーチックで、自分でも見たことのない顔が映っていてビックリしました。まさに一期一会の奇跡が生んだ作品で、今後もそういう挑戦をさせてくれる方に出会いたいですね。

この夏は話題の舞台の地方公演へ

現在は、7月に東京と大阪で公演する「アザー・デザート・シティーズ」という舞台の稽古に没頭しています。家族がテーマの作品で、私は心に病をもった作家の役。家族に関する暴露本を書いて家に戻ってきたことで、家族それぞれの感じている事実と真実の違いや、家族関係が浮き彫りになります。

この物語は、私の境遇とリンクする部分があります。母と娘が同じ職業で、残酷なほど傷つけあった経験や、似たくないと思っていても40歳過ぎたら母にどんどん似てきたところなど(笑)。私自身、なんでこの家に生まれたんだろう、と思ったこともありました。でも、子どもが生まれてからは、この子を守れるのは私しかいないと強く感じますし、親のありがたみがあらためてわかるようになりました。

8月には名古屋と大阪で、六本木歌舞伎「座頭市」に出演します。歌舞伎の家に生まれ、男だったら歌舞伎役者になりたいと思っていた時期もある私への、演出の三池崇史さんと市川海老蔵さんからのプレゼントだと思って、心から感謝しています。

私に歌舞伎ができるかと聞かれたら、やっぱりできないんです。歌舞伎役者は日々の鍛錬、訓練から生まれるということをあらためて感じました。でも、この舞台は歌舞伎の要素がすべて入っていて、歌舞伎の特殊な表現方法なども勉強になりますし、歌舞伎の裏側も見られる。私の人生のなかで、すごく大きな舞台です。

約1カ月半、地方公演が続きますが、その間、息子はローランに全部お任せです(笑)。絶対持て余して地方に来ることは間違いないでしょうが(笑)、地方でしかできない楽しみも味わいながら、良い舞台を務めたいと思っています。

寺島さんが薄霧太夫/おすず役で出演する六本木歌舞伎「座頭市」。市川海老蔵さんとの22年ぶりの強力タッグが話題に。8月2~7日中日劇場(名古屋市)、8月10~14日フェスティバルホール(大阪市)で公演。
©Kazumi Kurigami

【阿部民子=構成、青木登=撮影】

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