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ゆたかなくらしって? ひと×アート

商店街にリビング?団地にホテル?美術家が語る、「日常」のアートの魅力

日本だけでなく海外でも、その地域に生きる人びとの生活に寄り添うアートプロジェクトを行っている美術家の北澤潤さん。UR賃貸住宅でも、茨城県取手市にある取手井野団地の「サンセルフホテル」や埼玉県北本市にある北本団地の「リビングルーム北本団地」などを手掛けています。北澤さんのアートプロジェクトにかける熱い思いをうかがいました。

北澤さんが行っているアートプロジェクトはどんなものですか?

「アートは美術館やギャラリーで見るものと思っている人が多いかもしれませんが、私は美術館やギャラリーから外に出てアートを実践しています。10年ほど前から、行政、病院、学校、企業、商店街などと協力しながら、“もうひとつの日常”というコンセプトで、さまざまなプロジェクトを行ってきました。不要な家具を収集し、物々交換することで変化し続ける居間を、商店街の空き店舗につくる『リビングルーム』が代表的な事例です。そのほか、仮設住宅の中に手づくりのまちをつくる『マイタウンマーケット』や、団地の空き部屋を太陽光発電のホテルに変える『サンセルフホテル』などがあります。」

「リビングルーム」

アートプロジェクトを行うようになったきっかけは何でしょうか?

「私の内なるテーマとして『日常』があります。自分が表現活動を始めていくなかで、そもそも言葉やしぐさといった何気ない自己表現ってどこから来ているんだろうと、気になったんですね。考えてみると、『自分らしさ』だと思っていた自己表現は、今まで自分が過ごしてきた『日常』によって構成されているという当たり前のことに改めて気づいたんです。そのとき、『日常ってすごい!』と尊敬する気持ちがある一方で、『日常こんちくしょう!』というような、受動的につくられてしまったいら立ちもあったんです。そこで始めたのが、社会の中に“もうひとつの日常”をつくることでした。そうすれば、普段の『日常』とはまた違った、主体的に表現しあえる場ができるのではないかと思ったんです。」

アートプロジェクトの目的は何でしょう?

「アートプロジェクトは、例えば『地域の課題を解決するため』といった分かりやすい目的をもっているわけではありません。むしろまだ誰も気にも止めていないような問題を浮き彫りにし、人々に問いかけていく特別な役割があると考えています。私のプロジェクトが『日常』というごく当たり前な経験に、もう一度目を向けてみようと訴えるのもその一つのあり方です。とはいえ、まちのみなさんが、最初から関心を持ってくれるとは限りません。時間をかけ、コミュニケーションをとりながら展開していきます。」

アートプロジェクトを進めるモチベーションはどこにあるのでしょう?

「アートプロジェクトは、良い意味で社会の期待を裏切ります。大多数の予想と異なる状況が生まれ、少しだけ一般理解を超えてしまう。それが良いことか悪いことか、価値あることか無いことか答えが出なくとも、関わってくださる方たちは、どこか心が動いている感じがするんですよね。しかも、そんなおかしなことを自然と5年くらいやっちゃってる! これがすごく好きなところです。頑張ってやったとか、新しいことをやったとか、そういう結果を目指しているわけではなくて、ありえないことを“既にやっちゃってる”状況をつくれたらいいなと思うんです。
初めて見た人にとって、地域でアートプロジェクトをやっている様子は、『おいおい、なんでこんな変なことやってるんだよ。なんでリビングルームが商店街にあるんだよ』という感じだと思うのですが、その地域の人たちにとっては、『いや、普通だけどコレ』みたいな…。こういう活動が社会の中に増えていくと、受け取る側が感覚を広げていく必要がでてきて、結果的に社会自体の感覚が開いていくと思うんです。狭い常識を越えた何かをいつでも受け止められる、そういう人に自分もなりたいし、そういう関係性がたくさんある社会を見てみたい気がします。」

「サンセルフホテル」