URBAN DESIGN
都市デザイン

まちの再生は、人のつながり

地方都市再生の先駆的取組みをしている佐賀市は、街なか再生計画の策定(H23)を受けて社会実験を伴う 「わいわい‼コンテナ」の設置や「街なか再生プログラム」及び中央大通り再生計画等の推進、街なか再生の集客、回遊性の向上に資する取組み、地域が主体となったマネジメント体制の構築を進めています。そのキーマンとなる株式会社ワークヴィジョンズ代表取締役西村浩氏と運営に携わっている特定非営利活動法人まちづくり機構ユマニテさが常務理事伊豆哲也氏に、「まち再生は人のつながり」をテーマにお話を伺いました。

聞き手/UR都市機構 技術・コスト管理部ストック設計チーム
チームリーダー 野間 隆康

4核構想エリア(街なか)

佐賀市街なか再生のマネジメント体制の構築のキーマンとなるワークヴィジョンズ西村氏

佐賀市街なか再生「原っぱ」「わいわい‼コンテナ」プロジェクトに係わることになった経緯を教えてください。

西村:8年ほど前、北海道の岩見沢複合駅舎の設計を行ったときに佐賀新聞から取材を受け、「佐賀のまちが元気になる取り組みを考えたい」という僕のコメントが掲載されました。それを見た市民の方からまちを何とかしたいと思っているので一度来てもらえませんか、と声をかけられた事がきっかけとなり、その後何度か佐賀市に出向き勉強会を行ったことで様々な方との出会いがあり、次第に行政の方とも交流ができ、2010年に「佐賀市街なか再生計画」の策定に携わりました。計画策定にあたって、社会実験として「わいわい!!コンテナプロジェクト」の企画を盛り込み、翌2011年からプロジェクトがスタートしました。

ワークヴィジョンズ西村氏

このプロジェクトの戦略について教えてください。

西村:佐賀市の中心市街地は駐車場ばかりで、街は夜の飲み屋街というのが現状です。今まで商店街がやってきたような土日に頑張ってイベントを開催するだけでは上手くいかないことは目に見えていました。そこで、平日の昼間=日常の風景を変えなきゃいけない、少し変化の兆しを起こすようなことを行わないと変わらないだろうと思い、子育て世代が来る街にして、まわりの大人たちが自然に子供たちを見守っていく状態を取り戻すためには何が必要か、を考え、実践したというところが一番のポイントですね。

インタビューの様子

子ども達にとって安全で、お母さん達にとって安心な環境をまずつくってみることから始めようと考え、空き地を原っぱにして、「わいわい!!コンテナ」を置き、国内外の雑誌や絵本、マンガだけが置かれる小さな図書館とお母さんたちが子どもの様子を眺めながら過ごせるオープンデッキをつくりました。

空き地や駐車場をなぜ「原っぱ」にしようと考えたのですか?

西村:共通のテーマは「街なか居住」です。でも子育てママは「街なか」なんか住めないと思っている。仮に車が入らないようにして殺風景な駐車場を原っぱに変えたら、子どもたちやお母さんが安心して暮らせる。そうしたら原っぱの横に面して空いている不動産には、ここでレストランをやりたい、ショップを開きたいという人が出てくるのではないかと思い、半径約200m位のスモールエリアベースにこのような取組みを考えました。

写真提供:ワークヴィジョンズ
「わいわい!!コンテナ1」・「原っぱ」

「原っぱ」は今後どうなっていくと思いますか?

西村:緑になるだけで、住みたい、お店を開きたいといった色々な動機が起こってきます。ただ、一方で人口はどんどん減るので空き家は増えていく。もしかすると、あるエリアは全部原っぱになるかもしれないけれど、それでもいいと思っています。空いた場所がどんどん原っぱになって、いわゆるセントラルパークみたいになるのです。ここに、豊かで最高に幸せな環境が生まれるためのソフトを導入できれば、沿道の建物の価値や古いビルの価値が上がってきて、最終的にまちの価値も上がっていくだろうと思っています。 また、「わいわい!!コンテナ」はオープン前に地域の子ども達やその親達と一緒に芝生を張るイベントを実施したのですが、このボランティアや街のために行動しようとすることが、まちの中での教育になるであろうと、この子たちが将来バトンを受け継ぎ、街のために行動するおとなになってくれると思っています。

「COTOCO215」を経営するきっかけはどのようなことですか?

西村:佐賀のような地方都市は、東京みたいな雑居ビルは無く、区画がみんな大きくて小さい物件がありません。また、比較的ちょうど良い大きさの空き店舗は、かつて職住近接で商売をされていたこともあり、店舗部分は空いていても2階や奥に住まわれていて、賃貸されていません。であれば、「わいわい!!コンテナ」と同じように、借地にコンテナを置くことにすれば、大した借地料じゃないのでやろうよということになりました。完全に民間事業で、ワークヴィジョンズの事務所とシェアオフィス、カフェを運営しながら、地域に根付いて、自ら民間のプレーヤーとしてまちづくりをやっていくことにしました。

写真提供:ワークヴィジョンズ
「COTOCO215」

商店街は、職住商混在みたいなことを考えると働く場所でもいいんです。働いている姿が見えたり、カフェに来たりする人の姿が見えるだけでまちの雰囲気はガラっと変わります。コワーキングで働いている入居者の子どもが学校が終わってから来て一緒に宿題をしていたりするわけです。まちの中に働く場所を用意して、子どもたちに「来ていいよ」という環境をつくることを意識を持ってやり始めれば、例えば保育園に入れなくても大丈夫という感じがします。こういう暮らしを少しずつでいいからどうやって取り戻していくか、ということがポイントだと僕は思うんです。

「わいわい!!コンテナ」を置いたことによる周辺への波及効果について教えてください。

西村:今、「わいわい!!コンテナ」の周りにお店を開きたいという人がどんどん集まってきていて、これは別にテナントリーシングをしているわけじゃなくて、この辺りに人が集まってきていて、何かおもしろくなってきたという情報が伝わり始めているからだと思っています。すなわち、「わいわい!!コンテナ」から始まって、少しずつエリアの価値を上げているということなんですね。不動産の価値よりも先に、このエリアがおもしろいという状況が伝わって、自然にテナントが増えてきました。約5年間、佐賀市主導のもと、公的な方向からのアプローチでやってきましたが、今は

制度を利用して出店した飲食店

民間のフェーズに移ってきました。「わいわい!!コンテナ」で連鎖していくための仕組みをつくったので、これから「わいわい!!コンテナ」は必要であれば増やしていくという可能性もありますし、民間フェーズに移ったことに伴って民間事業が増えてくるので、いかに民間のおもしろい人たちを集めてきて人材を育成するかがこれからの役割だと考えています。

プレーヤーの発掘について教えてください。

西村:佐賀市と一緒になって、地銀等の金融機関がリノべ―ション事業に融資する仕組みをつくりました。 ポイントは、まちづくり、建築、プロモーション、経営等の様々な分野の専門家チームが事業者の事業内容をブラッシュアップし、街のためになるという事業に関しては、佐賀市が認定を与えて一定期間の利子の助成や信用保証料の補助を行い、金融機関がお金を貸すという仕組みです。築年数が経過して資産(担保)価値がない物件のリノベーションへの融資を担保主義から収益還元主義に変えていくということを意味しています。 もう一つは、この制度をつくったことによって、新たに出店や起業をしたいというプレーヤーの情報がここに集まってくるのです。地方都市はプレーヤーが少ないからなかなか難しいですけど、ものすごい情報が集まってきます。

駐車場の地域貢献との関係について教えてください。

西村:駐車場を一帯で経営する(=集約する)ことで収益率を上げながら、土地の一部をまちに貢献するコンテンツで有効活用するということが地方都市のモデルとして一つ考えられるんじゃないかなと思っています。今までみたいに全部買収して区画整理して建てるのではなくて、空いている土地のままの状態で集約化し道路に面したところに効率よく物件を置いていくみたいなことができると、土地のオーナーにとっても、駐車場経営者にとってもメリットが生まれます。そういう取組みができないかなと思っています。

地方都市再生のポイントを教えてください。

西村:行政はきっかけを作って、途中から民間がバトンを受けて、コンパクトにみんなでやろうという意識がある人が集まってこないと、地方都市の再生は難しいと思います。これからの開発の仕方というのが、面的に一斉に全部きれいにするのではなくて、小さく空いているところを連鎖させることで、毎年何かが進むし、実感をもって、しかも多くの人が参加できるやり方でできるんじゃないかなと思っています。だから、佐賀でやっていることは、道路やクリーク(水路)、公園といったパブリックな空間の価値を再生しながら、それが「この辺りよくなってきたね」という地域ブランド力につながっていて、結果的に少しずつ地元の人が集まってくるという連鎖を生み出しているというわけです。不動産の価値が上がっていって、ここで稼いだお金の一部を、例えば「わいわい!!コンテナ」の維持管理費に少し回していくみたいな仕組みをつくれば、人とお金がぐるぐる循環するまちができていくわけです。 僕は「たまねぎ戦法」と言っているのですが、まちが変わる時、はじめに行動を起こす人の数は限られています。その人たちが、どこで、どう動くかでまちの未来が変わります。大事なことはエリアを小さくして、そこに集中させ、価値を上げることです。そうすることでまちの変化が見て取れるようになり、人が集まってきて、それが連鎖し結果として周辺エリアの価値も上がっていきます。

【 略 歴 】
西村 浩 Hiroshi NISHIMURA
建築家/クリエイティブディレクター
株式会社ワークヴィジョンズ 代表取締役
株式会社リノベリング 取締役
マチノシゴトバCOTOCO215 代表
1967年佐賀県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、1999年にワークヴィジョンズ一級建築士事務所を設立。土木出身ながら建築の世界で独立し、現在は、都市再生戦略の立案からはじまり、建築・リノベーション・土木分野の企画・設計に加えて、まちづくりのディレクションからコワーキングスペースの運営までを意欲的に実践する。
日本建築学会賞(作品)、土木学会デザイン賞、BCS賞、ブルネル賞、アルカシア建築賞、公共建築賞 他多数受賞。2009年に竣工した、北海道岩見沢市の「岩見沢複合駅舎」は、2009年度グッドデザイン賞大賞を受賞。
http://www.workvisions.co.jp/
西村 浩 Hiroshi NISHIMURA

「わいわい!!コンテナ」の運営を行っている伊豆氏 

「ユマニテさが」の設立経緯と、活動内容を教えてください。

伊豆:「ユマニテさが」は、2005年(平成17年)に佐賀商工会議所内に創設された「TMO佐賀」が2009年(平成21年)に独立・業務継続した組織です。元の組織である「TMO佐賀」は小売商業の活性化を中心として活動していましたが、「ユマニテさが」はさらにイベント事業、人間づくり事業、情報発信、空き家対策事業、IT企業等の企業誘致等を行っています。そして来る人、住む人、参加する人を増やす都市整備の1組織としての役割を担っています。

ユマニテさが伊豆氏

「わいわい!!コンテナ」を始める前の街の状況はいかがでしたか。

伊豆:中心市街地の定住人口はマンション建設により平成12年からずっと増加(H12:7,670人⇒H27:9,110人)しているんですが、ライフスタイルが車移動のため、街なか(商店街)を歩く人がいない(主要商店街通行量はピーク時の5分の1)ことが課題でした。 その課題に対し、西村氏からまちにある老舗百貨店の「玉屋」、市街地再開発ビルのエスプラッツ、佐賀固有の歴史文化の残る「松原神社」「佐嘉神社」エリア、長崎街道の色合いが強い「柳町」「呉服町」エリアという4つの核の活性化を図ることと同時に、平日の昼間に人が集まる拠点をつくって、そこから人が回遊していくような仕組みをつくろうという「4核構想」が示され、実効性を確認するための社会実験として打ち出されたのが「わいわい!!コンテナ」でした。

グラフ提供:ワークヴィジョンズ

西村氏の提案に対する地元の反応はいかがでしたか。

伊豆:街がどん底まで来ていましたので、否定的でないというか、新しいアイディアが出たらとにかくやってみよう、失敗したらやり直そうという乗りで、スピード感がありました。西村氏の提案を、地権者、地元商店街、住民などで結成された「佐賀市街なか再生会議」で決めて、行政がそれを支援するという形で動き始めました。

「わいわい!!コンテナ1、2」について教えてください。

伊豆:「わいわい!!コンテナ1」は社会実験という形で2011年(平成23年)6月より行いましたが、人通りが絶えていた商店街に子ども達が遊びに来るようになりました。
昔、子ども達が放課後立ち読みをして帰って行った本屋が街なかになくなってしまったため、コンテナには、市立図書館の司書の方にも協力頂きながら若い人や子ども向けの雑誌、絵本、良質な漫画などを置きました。佐賀の街なかは田園都市でありながら緑が少なく殺伐としていましたが、「わいわい!!コンテナ1」の前や空き地に芝生を植えて街なかに緑の空間をつくったことにより、子ども達が集まったのではないかと思います。

「わいわい!!コンテナ2」内にて

「わいわい!!コンテナ1」は、8か月で15,000人の集客があり成功しました。しかし当初の目的が、人を集め、街なかを回遊させるというものだったのが、実は回遊していない事が分かり、もう一つの拠点を作ることで人を回遊させようと試みたのが「わいわい!!コンテナ2」です。2012年(平成24年)6月にスタートし、商店街の出入り口で車が入らないところに設置したことで子ども連れがたくさん集まり自然発生的にコミュニティが出来始め、年間の来場者数は69,000人になりました。
また、漫画も置いてあるので小学生はみんなで会える場所ができ、中学生はここに来て勉強しています。

街の変化をどうように感じていますか?また、今後の展開のイメージを教えてください。

伊豆:エスプラッツ(再開発ビル)の中にある文化センターは一日に3,000人位の利用者がいるんですが、外からは全く人の気配が感じられないです。それに対し西村氏率いるワークヴィジョンズが独自で展開した「COTOCO215」は、開口部が大きいので、楽しそうに何かやっているとか、勉強している、などが全部見えるようになっています。佐賀は大体見せないようにする土地柄なのに、開放されているところで、人が何かやっているというのがはっきり伝わるというのがとてもよかったです。
次のステップは考え中です。プレーヤーが足りないので、そういった人材を引っ張っていくということが重要だと思っています。

商店街を歩く様子
【 略 歴 】
伊豆 哲也 Tetsuya IZU 
特定非営利活動法人 まちづくり機構ユマニテさが 常務理事
1953年佐賀県生まれ
1976年成蹊大学経済学部卒業
東京で12年間の出版社勤務、大阪で5年間のPR会社勤務を経て、中小企業診断士として大阪で独立開業
2000年佐賀に帰郷。佐賀商工会議所地域中小企業支援センターのコーディネーターに就任
2006年TMO佐賀(佐賀商工会議所)タウンマネージャーとして佐賀市中心市街地のまちづくりにかかわる。TMO佐賀が商工会議所より分離独立し、特定非営利活動法人まちづくり機構ユマニテさがとなる
2009年特定非営利活動法人 まちづくり機構ユマニテさが 常務理事
伊豆 哲也 Tetsuya IZU

お二人へのインタビューを終えて  まちづくりとは「ひとづくり」

野間:人口減少・超高齢化社会を迎えて、社会状況が大きく変わる今、これまでと同様の手法では、物事がうまく進まないことは言うまでもないが、行政・商店街・市民の協働で実現した、佐賀「わいわい!!コンテナ」は、都市の縮退を受け入れ、新しい価値観に基づいた佐賀市でのまちづくり手法であると思います。また、世代を超えた人と人の出会い、新たなコミュニティが生まれています。 今回のインタビューから、地方のまちなか再生は、そこでやれる人(キーマン)が重要であり、モノというよりも、やれる人を引っ張ってきて、人が人を求めて集まってくる。その人がモノをつくって運営をしていくような。それがある時間軸で見たときに、振り返ってみると、それがまちとしての広がりを持たせ、それが結果的には人のつながり、人づくりからのまちづくりになるのかなというふうに感じました。
(2017.02インタビュー実施)

UR都市機構 技術・コスト管理部
ストック設計チーム
チームリーダー 野間 隆康