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都市の再生
第1回埼玉都市再生フォーラム講演記録
第1回埼玉都市再生フォーラム講演記録
開催日時
会場
講演
平成15年11月19日(水) 午後3時〜午後5時
浦和東武ホテル
「都市再生と埼玉のまちづくり」
講師 早稲田大学教授 伊藤 滋氏(
講師略歴
1.
都市再生の動き

(1) 都市再生本部について
 私は都市再生本部につくられている都市再生戦略チームの座長を約2年間努めて参りました。この間、都市再生本部がどういうことをやってきて、どういう方向に行こうとしているのか、それが皆様のビジネスにどういうふうに関係していくのかということが、皆様の関心事ではないかと思います。

 まずは、都市再生本部とはどういうものか、ということをお話します。
 都市再生本部は、本部長が総理大臣、副本部長が国土交通大臣と内閣官房長官、本部員がその他の全ての大臣で構成されています。これら全ての大臣が集まったところで、都市再生本部の方針が了承されれば、閣議了解とほとんど同じ意味合いを持つことになります。これは非常に重いことで、そこで決まったことについては各省の大臣はノーとは言えないのです。そういう性格を持っているわけです。

 ですから、この組織にはひとつの特徴があります。それは、例えば、国土交通省と文部科学省、警察庁、この3つの組織が一緒になってひとつのことを一所懸命やりましょうということが決まれば、今までの縦割りの行政とは違う行動がとれることになります。総理大臣が各省庁を横ざしにしてある命令を発すると、各省庁は言うことを聞く、各省庁が言うことをちゃんと聞いているかどうかをチェックするのが都市再生本部の事務機構だということになります。
 実際に国土交通省と文部科学省、警察庁が一緒になってやっている仕事があるかというと、あります。それは、都市再生本部ができたから生まれた仕事です。つまり防犯です。防犯が重要だということに決まったら、そのあとは、これを世論もサポートしますし、企業もサポートします。大きい国民的な運動になってきました。こういうことが起きるわけです。これは、省庁連携がうまく行く機能を都市再生本部が持っているということです。

 こういう性格をもつ組織ですから、都市再生本部というのは使い方によってはかなり切れ味のあるナタ、大きい仕切りをするナタの機能を持っているということです。

(2) 都市再生本部の3つの活動分野
 都市再生本部が具体的に何をやっているかというと、3つの仕事に分かれます。
 1つは、「プロジェクト」。これは都市再生本部の名前において公共事業を決めるから、各省庁がんばってくれよということです。
 2つめは、「制度」。法律をつくることです。
 3つめは、「雑」。その他です。
 都市再生とはなんのためにあるのか。この「雑」のところで、私はいろいろ動きました。まず都市再生の第1番目の本質は何かというと、それは東京を世界に負けない、上海に負けない、ソウルに負けない都市にしようということです。外国から企業や資本が入ってくる流れが止まるという状況が3年前は非常に恐ろしかったのです。当時は一種の金融恐慌でした。長銀・不動産銀行があっという間に潰れました。10年前には日本の経済ランキングは色んな点で2位か3位でした。その後、急速に日本の評価は落ちました。それに対して日本政府がどうにかしなくてはいけない。5年くらい前から日本経済は国際経済の枠組みの中でしか生きていけない状況になりました。バブルの崩壊で八方ふさがりでした。その中で突破口を探すのにどうしたらいいかというのが、都市再生本部をつくる1つの理由でした。
 そして、外国資本から見て評価される、外国の企業が日本にコンスタントに資本投入し引き揚げない。そういう都市空間をつくろうということになりました。そこで出てきたのが、日本の不動産業界が言っていた「規制でがんじがらめの都市計画と建築基準法は日本を殺す」という話です。役人天国の中で時間観念もない、手続が遅い、そんなところに民間の回転の速い資金は投入できないということです。その設問の答えを出すために都市再生本部ができました。ねらいは法律を作ることで、都市再生本部が出来て1年たった平成14年4月に「都市再生特別措置法」ができました。

(3) 都市再生緊急整備地域
 「都市再生特別措置法」は都市再生緊急整備地域と都市再生特区で組立てられています。
 都市再生緊急整備地域の持つ意味は何か。県庁と都市再生本部がネゴシエーションをして場所を決めます。都市再生特区は都市再生緊急整備地域内のみで設定されます。そしてその地域内でのプロジェクトでは民都機構のお金が使えます。
 この特区では、都市計画と建築基準法の集団規定を全部撤廃して、そこに相応しい容積、斜線、建ペイを新しく定めるのです。
 もうひとつ重要なことは、民間側がこういう都市計画をやると役所に資料を出しますと、役所は6ヶ月以内にイエスかノーか答えることになりました。民間が都市計画の提案ができるということは、非常に重要なことです。これによって来年発足する都市再生機構も県庁の意向に拘わらず埼玉県の都計審に提案を出すことができます。都計審は6ヶ月以内にイエスかノーか返事をしなければならない。要するに企業が持っている時間感覚に対して役所側も応えるということです。
 これが都市再生本部の重要な仕事です。ですから、この都市再生特別措置法を決めて、その法を適用する場所を指定すれば、都市再生本部はその最も大事な仕事をすませたことになります。その後1年半の間に、都市再生緊急整備地域が全国で53箇所決まりました。埼玉県もさいたま新都心が指定されました。

(4) 稚内から石垣まで
 国のプロジェクトを指定し、特別措置法を運用することは大都市圏に政府が焦点をあてているわけです。しかし私がここで次のように考えました。“ただ「東京、東京」というだけじゃだめだ。地方もやらなきゃいけない”ということです。
 私は都市計画で色んな都市を歩いて参りました。歩いていますと、非常に屈折した気持ちになります。地方の中心市街地は全部ガタガタになっているのに、市役所は補助金待ちの姿勢で頭を使わない。そこの商店街に住んでいるお年寄りも、戦後儲けたお金があるので、シャッター通りになっていてもまったく困っていない。この街を何とかしなければいけないと都市計画のプロとして思うわけです。
 そこで考えたのが、「稚内から石垣まで」ということです。
 しかし、全国に頑張れよという場合、これまでのように口を開けていれば起債や補助金で面倒を見るという、これまでの中央政府のやり方を私は繰り返したくありませんでした。少ないお金を使っても、皆が知恵を出して努力すれば街はよくなるという運動をしてみたいと思いました。身の回りの生活の質を上げましょうと市民に語りかけてみたかったのです。それからNPOをうんと使ってみようと思いました。NPOにわずか50万円渡したとしても、ものすごく面白いことをやってくれる事例を知っていたからです。

 そこで総理に、身の回りの生活の質ですから、一番重要な安心安全を点検することをやってくださいと申し上げました。安心は防犯、安全は地震、水害(都市型水害)、火事、がけ崩れです。身の回りを点検して、安心安全に使えるお金をサポートしましょうということです。防犯については都市再生本部の中に協議会が出来てすでに動いています。
 2番目はお年寄りが歩きやすい、そういう街をつくってくださいということでした。お年寄りにはなるべく水平に歩いてもらいたい。駅前から家まで点検して、あちらこちらにエレベーターやエスカレーターを付けて、お年寄りが使いやすい街をつくるということです。
 3番目は、日本製の街をつくるということです。日本製の街とは基本的に美しい街ということです。日本の街は江戸時代、明治時代は結構美しかったと言われています。それは街の家並みが揃っていて、軒線が統一されていたからです。瓦の色も統一されていて、きれいだったそうです。ところが今の日本の街はめちゃめちゃです。我々の審美眼が徹底的に衰えてしまったのです。これを何とか直さなければいけない。美しい街をつくる。「地方都市は可能性がありますよ」と総理に言いました。
 4番目はゴミ、河川等の水質点検、自動車の排気ガス、こういう環境問題についても地方都市で点検してくださいと申し上げました。
 この4つの「身の回りの生活の質を上げること」、これが全国都市再生のための提言として採択されたのが一昨年の暮れです。
 去年からこの4つの分野について手をあげた都市を呼んで、国も入ってそれぞれの協議会がつくられて、今動いています。
 しかし、これだけではだめです。それで次のことを今年の5月にやりました。
 それは、総理に、「私に10億円ください。」と言ったことです。10億円を300万円づつ袋に入れると300の袋ができます。それを稚内から石垣までの都市に落としていく。それぞれの都市には色んなことを考えている人達がいるはずです。“その話を聞いて良いと思われるところには、その人達或いは市役所を100%信用して300万円入った袋を配る”、こういうことをやりたいと言いました。中にはものにならないものがでてくるかもしれませんが、これをやらなければ面白いことはできませんよと。
 総理も、そうだなということで、10億円いただけることになりました。
 その結果、募集開始から締切りまで約2ヶ月しかありませんでしたが、全国で650の提案がありました。そのうち400が自治体で250がNPOとか協議会から来ました。650のうち選んだのが170です。これが動き出しています。
2.
3つの都市計画の課題とその解決方法

 ここで、都市再生本部を離れて、都市計画本来の話をいたします。私が最近関心を持っている3つの話題です。

(1) 地区計画〜4/5ルールを明確にする〜
 零細密集住宅地を改善することは、都市計画の責任です。整備する公共側と地権者の皆様とが共同作業をやらないとできません。その共同作業のスタートは、地区計画の作成です。地権者の方々の5分の4が賛成なら、5分の1の反対があっても、地区計画はできるというルールをはっきりしていくべきです。公共側も5分の4の賛成があれば、必要とする事業をきっちりと執行すべきです。
 市町村が決める用途地域と地区計画を組み合わせれば、色んなことができます。
 繰り返しますが、重要なのは、5分の4というルールです。絶対多数の5分の4で決まったことは、申しわけ無いけれども反対の5分の1の人に従ってもらう。従わないときは、国あるいは地方の公的機関は、何らかの訴訟や強制執行を行なうというルールを一般化しませんと、なかなか日本の街はよくならないと思います。
 密集した質の悪い住宅地でも、地権者が5分の4ルールで地区計画を立てられれば、これに対応して県庁や国はそこに細やかな色んな事業費を投入することもはっきりとすべきです。これは、住民の努力には必ず公共が対応するという社会的契約の実践です。

(2) 身の丈にあった再開発
 地方都市の中心市街地がガタガタになっているところがたくさんあります。私は最近、そこでは身の丈に合った再開発をしてくれということを言っています。
 2階建ての木造建物が中心だった中心商店街で、再開発をして10階建てぐらいのビルにしますと、1階には地元の小さい専門店が入っても、2階から上にはだれも入らないという例がいっぱいあります。そうではない再開発をしようということです。地主さん方が自分のお金を出して、隣近所と併せて3階建くらいの長屋を建てます。1階は普通の商店、2階は自分の住まい、3階はディケアセンターにする。このごろは厚生労働省は老人ホームとかディケアセンターとか、民間が行なう福祉施設に随分お金を貸してくれるようになりました。そこに地元の開業医が来て老人の面倒をみてもらうことがあれば上手くいく。こういうのが身の丈に合った再開発です。

(3) 田園都市計画
 人口10万人以上の市の都市計画ですと、国土交通省からいろんな形で補助金が流れます。しかし人口3万人ぐらいの都市になりますとそれがなかなか難しい。一方、農水省は農業土木に昔から1兆円使って、田んぼを良くしたり、農業水利を良くしたりしています。私は、農水省は農村集落を美しくすることにも、そのお金を使うべきだと思います。人口3万人以下の都市の都市計画は全部農水省にやってもらったらどうでしょうか。
 また、地方の国道のバイパス沿いには、パチンコ屋、カラオケボックス、ラブホテル、スーパーが立ち並びます。そのほとんどが質の悪い建物です。そういった劣悪なスプロール市街地で、ラブホテルは建ててはいけないとか、パチンコ屋もあのデザインではだめといったことがやれる田園都市計画をつくりたい。それにはかなりお金が要りますから、農業土木のお金を使いたい。こういったことも都市再生で考えてみたいと思っています。
3.
街づくりの新しい話題

(1) 緑陰道路等、身の回りの街づくり
 3番目に私が国の仕事を少し動かした話をいたします。私は総理大臣のメールマガジンに6回程投稿いたしました。その中でヒットする記事とヒットしない記事があります。最初にヒットした記事は電線の地下埋設化でした。これについては、総理大臣官房に賛成だという何百通ものEメールが届きました。
 これは大変だということで、今年の6月でしたか、来年度から始まる第2次の電線埋設5ヶ年計画の事業費を倍にしたそうです。これで電線埋設のスピードが上がります。
 2番目が緑陰道路です。地方都市で、堂々とした20m道路の街路樹が立ち枯れたり、強く刈り込まれたために葉っぱが少なく醜い姿をさらしているところがいっぱいあります。何年もそのままになっているところがあります。こういう国はOECD加盟国では他にありません。立派な街路樹があれば、夏は涼しい、オープンカフェもできるかもしれない。周りの建物も街路樹の陰で隠れますから、壁面の日光を受ける量が少なくなります。冷房が控えめでも部屋の温度が下げられます。これを書きましたら、官房副長官の目にとまりまして、国土交通省の副大臣に緑陰道路整備をやってくれないかという話が行きました。これで、国道については知事や市町村長が言ってくれれば緑陰道路整備をやるといった通達がでたはずです。
 こういったことは「身の回りの都市空間の質を高める」という話です。

(2) 地籍調査による街づくりの基本
 それから、都市部の地籍調査を大々的に拡充しました。これは私が今年やった最大のヒットです。
 区画整理をやったり再開発をやった市街地、要するに国のお金が入ったところはきちっと測量してあるので、道路の位置や敷地の形が決まっていてそれが登記書に入っています。しかし、それ以外の民民境界のほとんどは地籍調査がされていません。東京23区の敷地面積のうち、地籍がきちっと画定しているところは12〜13%しかないのです。
地方税の対象となる固定資産税台帳も、建ぺい率、容積率の基となる建築基準法の敷地も国土調査法の支えが無いまま敷地として認定されている状況です。
 OECD加盟国で地籍がちゃんとしていない国は日本だけです。これを総理に話しましたら、地籍調査はとうとう国の重要事項になりました。
 地籍調査は今、国費150億円と県・市が150億円負担して、年間計300億円でやっているのですが、今回、多分国費100%の地籍調査費を計上するはずです。今後、20年くらいかけて、東京、大阪等大都市での民民境界を画定する。そのことを国土交通省と法務省が合意しました。法務省は民民の境界争いの裁きを行なう調停機関をつくることを決めました。
4.
埼玉における都市再生

(1) 仮住まいの町
 私は、埼玉とは長い付き合いをしています。さいたま新都心のけやき広場のデザインも決めました。
 埼玉には小さい都市がいっぱい散らばっています。そこに今700万の人が住んでいるそうです。昭和30年頃には200万人強だったのが約50年で500万人近く増えたことになります。その増えた人のほとんどが、とりあえずということで埼玉に来たのだと思います。要するに仮住まいで埼玉に居付いたという町です。それで仮住まいの街づくりがあちらこちらで行なわれましたから、つまらない街、きたない街がいっぱいできました。歩いてみると、建物もひどい、土地利用もひどい、荒れた農地に産廃が埋まっている。こういう場所は珍しくありません。そういうところを、大上段ではなく、地元から地道に1つ1つ点検して直していくことが大事な時代になってきました。

(2) 私鉄駅前広場の整備
 この仮住まい都市の手直しについて私は次のことをよく話しています。
 戦後、旧国鉄の駅前広場は整備されましたが、私鉄が住宅地経営をしているところを除いて、私鉄には駅前広場はありません。
 私は、駅前広場を良くするところから、街づくりの全てが始まると思っています。駅前広場を良くすれば、電車に乗る人が増えて、自動車に乗る人が少しは減るかもしれません。電車とバスやタクシーの接続が良くなるので、お年寄りが非常に効率良く病院などに行くことができます。
 また、駅前には清潔で広いお手洗いや交番を設けましょう。区役所、市役所の情報端末を設置してあらゆる証明書がすぐ手に入るようにします。測量設計事務所、税理士事務所、弁護士事務所など、生活に必要な専門職の事務所があれば、駅前広場が新しい生活拠点になるはずです。
 そういう認識のもとに、埼玉県の私鉄の各駅前を一斉に手直しすればと考えています。300平方メートルくらいの土地に200平方メートルの交通広場と歩道を整備して、残り100平方メートルに軽量鉄骨の三階建ての建物をつくって先ほどの色々な施設を入れます。これをやるのに3億円あれば何とかできるのではないかと思います。3億円のプロジェクトで、それを2〜3年で仕上げます。
 これにより、仮に200ヶ所の駅前を整備したとしても600億円です。600億円の事業で、埼玉県民700万人のうち400万人くらいはその恩恵に浴するはずです。
このようなアイデアは身近な街づくりですが、国や県庁がとりあげてくれませんでしょうか?

 もう一つ今、関東地方で面白いことが起きています。東大は千葉県の柏にキャンパスを構えました。慶応は神奈川県の日吉と湘南台です。埼玉県は本庄と所沢に早稲田があります。東大、早稲田、慶応がそれぞれ千葉、埼玉、神奈川にはっきり色づけされてポジショニングをすることになります。ですから、埼玉の人は、そういう意識で本庄も所沢も見ていただきたいし、ぜひ早稲田を支援していただきたいと思います。
第1回埼玉都市再生フォーラム講演記録
講師略歴
伊藤滋氏
伊藤滋氏

昭和37年 東京大学大学院工学系研究科博士課程建築学専攻修了 工学博士
昭和56年 東京大学工学部都市工学科教授
平成4年 東京大学名誉教授
現在、早稲田大学教授、慶應義塾大学客員教授、内閣官房都市再生戦略チーム座長、社団法人再開発コーディネーター協会会長、(NPO)日本都市計画家協会会長、都市再生機構運営委員会委員長
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