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特集:団地の未来 「団地再生」から「未来のかたち」へ > 団地の未来インタビュー 佐藤可士和さん

URPRESS 2018 vol.46 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

団地の未来インタビュー

洋光台団地をモデルケースに始まった「団地の未来プロジェクト」。
そのキーマンである佐藤可士和さんに、このプロジェクトの目的や、実際に進めていくなかで感じている可能性などを伺った。

さとうかしわ
1965年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。博報堂を経て2000年に独立、クリエイティブスタジオ「サムライ」設立。ブランド戦略のトータルプロデューサーとして活躍、その仕事は多方面から高い評価を得ている。
主な仕事にユニクロや楽天グループのグローバルブランド戦略、国立新美術館のシンボルマークデザインとサイン計画、カップヌードルミュージアムのトータルプロデュースなどがある。

子ども時代の団地はキラキラ輝いていた

最初は「ルネッサンスin洋光台」のアドバイザー会議の一員として、昨年からは隈研吾さんとともに「団地の未来プロジェクト」のディレクターを務める佐藤可士和さん。佐藤さんと団地の関わりは、子ども時代にさかのぼる。団地は子ども心をワクワクさせる、楽しい思い出に満ちた存在だった。

子どものときは東京の練馬区に住んでいましたが、小学校低学年の頃、近所に団地ができて、建設の過程から見ていました。何もない場所に、今まで見たこともないものが建っていく。とても新しいものに感じましたね。

うちは一戸建ての平屋でしたが、団地の最上階、5階に住んでいる友達がいて、「風通しがいいから、うちはエアコンいらないんだ」というのも驚きでしたし、眺めもよくて、としまえんの花火がとてもよく見えました。団地には商店街も公園もあって、それこそ毎日のように行って遊んでいました。その頃の団地は子どもでいっぱいだった記憶があります。

そんな佐藤さんも高校進学以降は団地に足を踏み入れることはなくなり、仕事でも団地とは無縁の日々。旧知の建築家・隈研吾さんから突然「団地、やらない?」とルネッサンスin洋光台のメンバーに誘われたときは、どのように感じたのだろう。

正直なところ「えっ、団地ですか」と驚きました。ただ、子どもの頃から団地を身近に感じていて、記憶の中に団地の姿はしっかりありましたし、最初は6人のアドバイザー会議の1人としての参加でしたから意見もいいやすく、自然に加わって自由に考えを広げてきた感じですね。それに続く「団地の未来プロジェクト」は、以前に手掛けた「今治タオル」以上に難度の高い仕事ですが、段階的に関わったのでなかったら引き受けていなかったかもしれません(笑)。

建築家の隈研吾さんと洋光台団地を歩く佐藤さん。40年の時を経た団地の良さが見えてきた。
アドバイザー会議は、佐藤さん、隈さんのほか、社会学者の上野千鶴子さん、東京大学教授の大月敏雄さん、千葉大学教授の広井良典さん、横浜市の信時正人さんの6名で構成された。

団地の魅力を再発見し世の中に提示する

かつて団地は、寝食分離や鍵一つでプライバシーが守れる生活といった、新しい時代のライフスタイルを創り出す存在だった。しかし、時間の経過とともに環境や社会のあり方も劇的に変化し、時代にそぐわない部分がさまざま出てきている。いかにこれらに対応して団地を再生していくかという大きな課題に、佐藤さんはどのような方向性を見ているのだろう。

まず前提として、隈さんと僕がこのプロジェクトを担っていることの意味は、それぞれの専門的な分野、つまり建築的なアプローチとブランディングという手法、ハードとソフト双方が融合したところで、何か新しいことができないかという点にあると思います。そもそも今回の取り組み自体が、時代にそぐわなくなった部分を見つめ直して、その課題を見つけながらできたので、スムーズにスタートできてよかったと思っています。今の時代のアイデアを注いで価値を再定義していくものです。アドバイザー会議でもこの視点からいろいろな提言をしました。

ブランディングの際に大切なことは、マイナス部分を埋めていくのではなく、いいところを見つけて伸ばしていくことです。本質的に価値のある部分、「団地の魅力」といえるものを再発見して世の中に提示していく。それも戦略的に考えながら情報を発信していき、望ましいイメージを形づくっていくことが必要です。

アドバイザー会議に加わるにあたって隈さんと洋光台団地を歩いてみて、空間の豊かさとか緑の多さとか、いまだに色褪せない価値があると思いましたが、建築的な面で一番印象的だったのは、いい意味での「ゆるさ」でした。全部きっちりと揃えずに少し違っている住棟の向きとか、敷地の起伏、目的がよくわからない空間とか。至るところに「ゆるさ」があり、40年の時間を経て出てきた「温かみ」もある。これをいかに強みに変えていくかが、ポイントになるのではないでしょうか。

一方、ソフトの面から団地の価値や魅力を考えたときに浮かび上がってきたのは、団地に住む一番の良さ、プラスになる部分は「集まって住むパワー」にあるのではないか、ということでした。戸建てはもちろんマンションでも、団地ほどの規模のものはありません。集まって住むからこそ生まれる、団地の良さ、楽しさ。それを最大化していくことが、団地の未来につながると考えています。現在は、それをいかにビジュアライズしていくかが課題ですね。

団地の魅力を再発見し世の中に提示する

取り組みを、目に見えるかたちで発信

団地の未来プロジェクト建築アイデアコンペティション(北集会所)で最優秀賞を受賞した長野憲太郎、王翠君の作品「OPEN RING」。テーマは新しい人々の共有の輪だ。今後、実施設計を行い、工事に着手する予定。
ビジュアライズとは、具体的な取り組みとして進め、目に見えるかたちにしていくこと。団地の未来プロジェクトでは複数のプログラムを立ち上げて取り組んでいる

例えば集まって住む団地ならではの存在に、集会所があります。プログラムの一つとして、先日「集まって住む未来」をテーマに北集会所の再整備プランのコンペを行いました。148作品もの応募があり、みなさん実に真剣に考えてくださっていて、それだけでも素晴らしい成果だと思います。

今回は選にもれても、いずれ他の団地でこういう試みがあればまた参加し、ここで学んだことをブラッシュアップしていい答えが出せるかもしれません。このコンペ自体がかなりの話題になり、団地が抱える課題と「団地の未来プロジェクト」という取り組みを世の中に伝えることもできました。

また、プロジェクトを始めたときからフィルムコミッションというアイデアを持っていましたが、昨年偶然にも東宝さんから『シン・ゴジラ』のロケの話が舞い込んで、実現しました。団地を映画やドラマの撮影に使ってもらうことで、話題になり認知もされます。それも戦略のひとつで、海外の賞を取るような映画の舞台になって、グローバルな情報発信ができれば最高ですね。

先ほどブランディングする際の情報発信について触れましたが、世の中に伝わっているかどうかはとても重要です。僕はこれを「伝わっていないのは、存在していないことと同じ」といっていますが、伝わらなければ、物理的には存在しても、意識からは消えて忘れ去られてしまいます。まず関心を集めて伝えること。そして団地というものに対するみんなのイメージを豊かにしていくことが大切です。

その上で、集会所を作り直す、映画の撮影を誘致する、防災イベントを実施するなどといったプログラムを展開すれば、居住者はもちろん外からもいろいろな人が参加してくれるようになります。多様な価値観が出合い、新しいものも生まれやすくなり、さまざまなアイデアも出てくるでしょう。多彩な知恵を集めるために、プロジェクト自体をオープンにして、僕自身も防災の専門家やジャーナリストの方々と意見交換し、内容もウェブで公開しています。

もちろん一つひとつのプログラムが実際に洋光台団地のコミュニティー活性化につながればいうことはありませんが、すぐに結果が出なくても、それはそれで意味があると考えています。洋光台団地の再生だけが最終目的ではなく、さまざまなスタディーを行って、いいソリューションを試行錯誤していくための「プロジェクト」なのですから。

団地の未来プロジェクトの取り組みの1つに「フィルムコミッション」がある。映画やドラマなどの撮影を誘致し、認知度向上や話題化を図るのが目的だ。さっそく東宝映画『シン・ゴジラ』の撮影が洋光台団地で行われ、7月29日から全国東宝系にて公開。映画の中の団地のシーンは話題を呼ぶことだろう。
『シン・ゴジラ』 脚本・総監督:庵野秀明 監督・特技監督:樋口真嗣 准監督・特技統括:尾上克郎 ©2016 TOHO CO.,LTD
制作・配給:東宝株式会社

「集まって住む」ことに可能性を感じて

洋光台団地に留めることなく、いずれここをモデルケースとして全国の団地に広げていくためのプロジェクト。「洋光台プロジェクト」とせずに「団地の未来プロジェクト」としたのも、社会的な取り組みだと考えてのことだと佐藤氏はいう。

団地ごとに条件は違いますから、それぞれに合った形を工夫して、洋光台から他の多くの団地へ、さらには日本の「住まい方」に一石を投じたいですね。洋光台での取り組みは2020年を目途にしていますが、参考事例となるような成果を出していきたいですね。

このプロジェクトで掲げている「集まって住む」ことは、大きな可能性を秘めていると僕は思っています。今、日本は人口が減っていく局面にありますし、IT化が進んで個々の間の物理的距離が遠くなっています。

だからこそSNSのような「個」と「社会」がつながる仕組みにみんな惹きつけられるわけですが、今後は物理的に人が集まることが求められるようになるのでは、と感じています。プライバシーも守りたいけれど、人にはやはり集まりたい、人とつながっていたいという確実な欲求があります。そういった意味でも、「集まって住む」パワーのある団地の未来は、きっと面白くなると思いますよ。

【西上原三千代=構成、佐藤慎吾=撮影】

動画

佐藤可士和さん インタビュー

「人」と「空間」を生かして団地の価値を再発見する

昭和40年代につくられた洋光台のまちで、今、世界的な建築家・隈研吾氏やクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を迎え、団地を核にした画期的な地域再生の取り組みが進められている。

「集まって住む」
その力が未来を開く鍵になる

洋光台団地をモデルケースに始まった「団地の未来プロジェクト」。<br />そのキーマンである佐藤可士和さんに、このプロジェクトの目的や、実際に進めていくなかで感じている可能性などを伺った。

夢追う若者に無償で部屋貸します!

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