街に、ルネッサンス UR都市機構

未来を照らす(2)スペシャルインタビュー 中田喜子さん

URPRESS 2014 vol.39 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


未来を照らす スペシャルインタビュー 中田喜子さん
「古いものに命を吹き込むDIYは人生に潤いをもたらす」

舞台やドラマで活躍する女優の中田喜子さんが、じつは大のDIY愛好者だということ、ご存知でしたか?
壁紙張りや椅子の張り替えはお手のもの。
DIYの醍醐味は、自分の身の回りのものに愛着が持てるようになることだと語ります。
団地のリノベーションにも興味津々の中田さんに、DIYや住まいについてうかがいました。

なかだ・よしこ
東京都出身、1972年にデビュー。
NHKの人気番組「連想ゲーム」の紅組キャプテンとして親しまれ、テレビ、舞台、映画で活躍を続けている。
長寿ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」の三女・文子役は有名。
趣味はDIY。
著書に「女優・中田喜子のDIY 手作り模様替え工房」(主婦の友社)がある。
8月に幕張で開催されたDIYショーにゲストとして登場。得意の腕を披露した。

昭和初期に建てられた生家が「住まい」の原点

いままで住んだなかでいちばん思い出深い家は、生まれ育った東京都中央区新富町の家です。昭和初期に建てられた当時では珍しい木造3階建てで、外壁は黄土色っぽいレンガ造り。2階には親族の結婚式をするほど大きな広間もありました。

下町ですから、お隣さんとのコミュニケーションも濃かったですね。内風呂があったので、うちのおじいさんが入ってから、2番目にご近所の方が入るように呼びに行くのが私の役目でした。そこに小学校6年生まで住んでいました。

新富町の家は大きかったこともあって、子ども心にはとても暗いイメージでした。いたずらをすると2階のお客様用のトイレに閉じ込められるのが、怖くて怖くて(笑)。それに比べて、当時、母の妹が住んでいた団地は、最先端で憧れでした。いとこもいたので、しょっちゅう遊びに行っていました。うちのお風呂は石炭で焚いて沸かすのに、おばの家はガスをひねればお湯が沸くでしょう。気密性がよくて冬は暖かいし。とても暮らしやすそうに感じました。

団地には、撮影でも訪れました。東宝の撮影所などがある関係で、世田谷区砧の団地をよく使わせていただきましたが、当時は快く貸してくださる方がいて、おうちの中のロケもあったくらい。日当たりがよくて、棟と棟の間隔も広くて、緑も多くて。敷地が広いせいか、みなさんお花などをきれいに育てていたのも覚えています。

私は団地というと連想するのが、鉄の扉なんです(笑)。10代の頃、新しい団地が建っていくと鉄の扉の色がとてもカラフルに感じて、モダンだなぁって憧れがありました。共有の廊下から一歩扉の中に入ると自分の空間になることも、とてもすてきに感じられました。

20代で訪れたドイツでDIYの楽しさに開眼

思い返してみると、高校生のときからドアとかドアノブが好きで、解体したりしていたのですが(笑)、20代になって目覚めたのがDIYです。お仕事でドイツに行ったとき、キッチンのキャビネットや階段などの大ものから、細かなパーツまで売っているお店があちこちにあり、向こうの方たちがそういうものを買ってリフォームを楽しんでいるのに衝撃を受けたんです。当時の日本では、そういうことはプロにしかできないと思われていましたから。それで、ダメもとでやってみようと思ったんです。

最初に挑戦したのは、壁紙張りでした。実家のリビングの壁紙を自分ではがして、アメリカ製の壁紙を張ってみたんです。照明器具の色に合わせて大きな花柄の壁紙にしたので、お部屋の雰囲気もガラッと変わり、母も「きれいになった」と喜んでくれました。私の場合、最初に成功したことが、その後のDIY好きにつながった気がします。

次は、「塗って」みましたね。テーブルの輪染みを直したくて、紙やすりでこすってニスを塗ったり。撮影用のメイク道具を入れるカゴが味気なく感じて、当時出たばかりの「カシュー」という、うるし塗り調の塗料を塗って、持ち歩いたりしていました。

その後は、カーテン作りです。カーテンは直線縫いだから簡単なんですよ。サイズも適当で、短かったら布を足して、長かったら切ってという方式(笑)。ヨーロッパで、ひもを引っ張るとギャザーができる芯地を見つけたこともあって、家中のカーテンを作りました。

普通に作るのに飽きると、気に入っているけれど少し古くなったカーテンを利用して、リフォームを楽しみました。例えば古いカーテンを半分に切って、その間に新しい布を足してパッチワーク風にしてみたり、短く切って、裾にギャザースカートのように新しい生地を足したり。古いものに少し手を加えることで再び息を吹き返すのが新鮮で、そういうアイデアはなぜかすぐひらめくんです。

ですから、20代で初めて自分のお部屋を借りたときは、すごくうれしかったですね。ちょうど下見に行ったときにクロス屋さんがいらして、普通のクロスを張ろうとしていたので「茶色のクロスにしてください」とお願いして(笑)。桧のお風呂だったので、そこから連想して建具をこげ茶色にして、窓にはカーテンではなく簾(すだれ)を下げて、いまでいうアジアンリゾートっぽいインテリアにしたんです。古いマンションでしたが、自分で手をかけてすごくいい空間になりました。

それから何ヵ所か住まいを変えているのですが、姉たちも「喜子の部屋って、間取りは決して住み心地がいいとは思えないのに、あなたが家具を入れてインテリアを整えると、すごく落ち着くわね」とほめてくれます。

古いものを再生し暮らしに潤いをもたらす

DIYの醍醐味は、自分で手をかけることによって、身の回りのものに愛着が持てるようになることだと思います。例えば毎日座るダイニングチェアの布地が切れていたら、それを見ながら暮らすより、たとえ歪んでいようと自分で張り替えて新しくなったものに座るほうが気持ちいいでしょう。

古いものでも、自分でDIYすることによって新しい良さが加わって、より味のあるものになる。愛着を持ったものを大切に再生しながら、いつもきれいにした空間に住んでいることは、毎日のゆとりや心の潤いにつながるのではないでしょうか。

最近はDIYがトレンドになっていることもあって、材料も工具もとても扱いやすいものが出ています。昔はプロにしかできなかったことが、いまは誰でも簡単にできるようになっているんです。工具もピンク色や赤など、女性でも楽しめるものもたくさんありますし。ぜひ、興味のある方は一部分だけでもいいからやってみてはいかがでしょうか。

成功するための秘訣ですか?私は作業に入る前に設計図を見て、段取りを考えます。壁塗りなら、最初は目立たないところから始めて、失敗してはいけないメインの場所は最後にすると、腕も慣れてきれいにできます。ペンキ塗りがうまくできないなら、あえて塗りムラが味になるアンティーク調に塗ってみるのもいいのでは?

そして、やり始めたら決してあせらないで、ひとつずつ仕上げていくことも大切ですね。せっかちにならずに気長にやれば、必ず完成します。それで居心地悪いなと思えば、また直せばいいんです。

人間にとって、感動は若返りの秘訣だと聞きますが、私にとってDIYはまさに感動そのもの。苦労すればするほど、出来上がったときは、こんなに喜べるものはないのではないかと思うくらい感動します。そして、そんな趣味を持っていることで、若返る気がするんです。

理想の住まいとは常に進化し続けるもの

日曜大工的なDIYと異なり、リノベーションはより大規模に、古い空間を現代に合うように修繕・修復し内装を改善すること。

もし、私が団地のリノベーションの担当者になったら、まず一部屋が大きくなるように間取りを変えたいですね。それと、消防法などを調べてからですが、できるならキッチンは、ユニットを壁から離してアイランド式にしてみたいです。お風呂に関しては、日本の浴槽やユニットバスはすばらしいと思うので、そのまま生かします。窓の大きさは変えられないので、北欧の家のように小さな窓を楽しみながら二重窓にして、インテリアも北欧風にします。

ただ、私の経験からいうと、すべてのインテリアのトーンを統一すると面白みがないし、空間も狭く感じてしまう気がします。少し異質なものをアクセントに入れるとか、壁なら4面のうち1面を違う色にすると、広がりが出るように思います。

いまの団地には、自分好みにDIYできるお部屋があるそうですね。しかも原状回復しなくてもいいお部屋もあるなんて、最高ですよね(笑)。

自分で団地のお部屋をDIYするのなら、畳をはがして、最近見つけたフランス製のタイルフローリングを張ってみたいですね。見た目は木目調なのに、塩ビ製でカッターで簡単に切ることができ、裏に接着剤がついていて簡単に張れるすぐれもの。とても気になっているんです。

また、団地の天井が低いのが気になる場合は、床に座る生活を楽しんではいかがでしょう。家具もわざわざ新しいものを買わなくても、リサイクルショップで見つけたテーブルの脚を切ってみるとか、板と発泡スチロールのブロックを強力接着剤で張り合わせて台座を作り、布をかぶせてクッションを置けば、低めの椅子ができます。

私にとって、理想の住まいは常に進化し続けているもので、「これ」という決まりは永遠にないと思います。お洋服のトレンドと同じで、常に変わっていくものではないでしょうか。それを追い求めながら、これからもDIYを楽しんでいけたらと思っています。

【阿部民子=構成、佐藤慎吾=撮影】

Information


明治座新春公演「春日局」

2015年1月2日に幕が開く明治座新春特別公演「春日局」に、中田喜子さんがお勝の方役で出演します。原作・脚本・橋田壽賀子、演出・石井ふく子による舞台です。公演は1月23日まで。

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