街に、ルネッサンス UR都市機構

街みちネット 第6回見学・交流会「大森ロッヂの事業について」

これまでの活動の紹介

活動議事録

大森ロッヂの事業について概要説明
天野氏自己紹介

天野氏
  • 前職でブルースタジオというリノベーションを得意とする設計事務所に勤めていて、その際に大森ロッヂの設計を担当した。そちらを今年の3月に退職してそのまま大森ロッヂの完成した棟に移り住み住人となり管理人となり、設計事務所を独立して運営している。現在、工事が進行している部分の改修も担当している。木造案件の再生を担当することが多かったので、得意としているし、個人的にも興味を持って取組んでいる分野である。

事業の背景や従前の状況について

天野氏
大森ロッヂ入口
  • 従前は、街角一角が全て大森ロッヂのオーナーの所有物になっていた。母屋の南側東側の3軒は平屋建ての長屋形式の賃貸住宅で、奥の母屋の日当たりに影響がないところは2階建の同じく長屋形式のアパートが3軒建っていた。1軒だけ、借地人が建てた戸建住宅があった。それを矢野さんが買い戻したところからこの計画はスタートしている。
  • 歴史的背景として、この辺りは昔は浅草海苔の養殖が盛んな地域で、海苔の干し場として広い敷地が点在していた。
  • 大森ロッヂが実際に建ったのは昭和30年代から40年代で、10年くらいの長い期間をかけて、同じ大工の棟梁が年々少しずつ成長を遂げながらアパートを建てたという経緯がある。30年代なので、蒲田エリアの工場地帯がちょうど高度経済成長で活発になってきた頃にそのアパート需要を支えるために建てられたものだと思われる。
  • 根源的な話をすると、皆さんがまず疑問に思うのは何故建て替えをせずに再生することを選んでいるのかということだと思うが、その辺りについて矢野さんの方からお話をお願いしたい。

事例の紹介

矢野氏
  • 老朽化した時に、通常一番安易な方法は、建替えてしまうことだと思うが、私自身が自分の気持ちや感性に正直に暮らしてみたいと思っており、ハード面は風や緑や土などの環境が好きであるということ、それとそこに育まれていく人の触れ合いがないといけない、その2つの観点から残していきたいと思った。あと、やはり街並みがどこに行っても同じものになってしまうことに非常に疑問に思っているので、そういった観点からリノベーションでやってみようということにした。
天野氏
  • 見ていただいている街並は、歴史性があって、作られた方の思いが残っている。そういったものを安易に壊してしまって、日本中どこにでも同じ街並みのような今新築の建替えが進んでいる方向には持って行きたくないという思いもあって、お手伝いさせていただいた。既製品・規格品にはないような大工さんの手作りの部分・愛着が感じられる部分を残していくことを心がけている。
  • 建物自体に何か価値があるというものではなく、この場に流れている歴史的な背景や空気感や距離感というものが大森ロッヂの心地よさである。

設計・工事について

天野氏
  • 母屋を中心に7棟の賃貸住宅に改修したが、元々の入居者もいらっしゃったので、空いたところから順次工事を進めており、今まで第三期工事まで三段階に分けて行っている。
  • 最初に門を入ってすぐ左にあった三軒長屋と借地権が買い戻された戸建の住宅、この2軒がまず空いたので改修をした。従前の戸建は、その辺りによくある古い住宅で、中も畳も古くて、家自体も傾いでいるような状態だった。三軒長屋の方は、外観に関してはほとんど手を加えておらず、色を塗り替えただけである。内装に関しても間取りは大きくは変えておらず、元あったキッチンも残しており、なるべく使えるものは残し、必要以上の変化は避けている。
  • 全棟共通の設計のルールとしては、耐震補強の工事を最優先で行っている。これは大家のリスク回避、また住まわれる方の安全性確保のために必ず行っている。
  • 改修工事範囲は必要最低限にしぼり、5年後10年後と適宜メンテナンスを行う予定である。
  • グラスウールなどの断熱材は一切入っていなかったので、内部から壁を剥がして断熱材を入れて断熱性を上げている。
  • 賃貸なので、安全性と清潔感、安心できる住まいを提供しようということを最優先にしている。例えばキッチンは古いものを残しているが、配管や給水の金物などの古い部分は全部更新している。
  • 建物の保存を目的としたボランティアではなく、工事費や賃料など、賃貸事業として成り立つように収支を検討して取組んでいる。
  • 設計の理念としては、余計な設計やデザインを入れないことと、入居者が生活を快適にできるように空間を最大化することを目指している。賃貸だからこそ、住まい手の方が個性を発揮できるような住まいを目指している。
  • 間取りはほとんど変えていないが、前の建主さんが増築したのであろう適法にならない部分は減築している。
  • 解体の段階から大工さんに入っていただき、アドバイスやアイデアをもらい、相談しながら古い部材を再利用して工事を進めている。以前の和室の天井に張られていた板を他の棟の外壁の補修に使ったり、長押などの細かな材料や建具やガラスも取っておいてそれを他の棟で再利用している。手間と換算してどうかということはあるが、ゴミを減らすことができ、エコという要素もあると実感した。
  • 東屋もリノベーションで、大家さんの物置の壁を撤去して床を張って東屋に仕立てたものである。
大森ロッヂ敷地内の東屋
  • 第三期で改修した棟は第一期・第二期に比べると条件が厳しかった。道路に面した立地で庭もない、避難通路が確保できていないなど、居住上、安全上、改善すべき問題が多くなった。
  • 改修後は、2棟をつないで戸数を減らし、アトリエ棟+中庭+住居塔という町家のようなプランとすることで、居住性・安全性の向上を図っている。
  • アトリエ付賃貸住宅ということで、計画当初はSOHO利用での需要を見込んでいたが、実際入居された方の属性は、4軒中3軒は普通にお勤めの方で、新たな発見となった。
矢野氏
  • 従来のものを安易にそのまま作り直すのではなく、住む人の創造性を引き出すようなスペースができたらと思って作っていただき、従来の賃貸住宅建物とはかなり違ったものになったが、そこに住まわれた方がごくごく普通の方だったと言うことが新鮮な驚きで、今住んでいただきながらとても楽しい。
  • 特にアトリエ部分に関しては原状回復義務がない契約としている。住まい手の方が自由に発想し創造できる空間となっている。
天野氏
  • 私のお隣さんが庭に白い砂利を敷き始めたので、対抗して私は黄色い玉砂利を買ってきて敷き詰めて、そうしたら更にそのお隣さんがグレーの砂利を敷いて、残すはあと1軒、という状態になっている。
  • 大森ロッヂではあえて専用庭をキッチリとは仕切らず、避難路を確保すると共に、庭先や縁側からコミュニケーションを取れるようにしている。外周部は大和塀という伝統工法の塀でゆるく仕切り、敷地内部は住まい手同士が交流しやすいように開放的な造りになっている。塀の隙間からは内部の様子をうかがうことができ、人が潜みにくいなど、セキュリティ上も有効に働いている。
開放的な造りの専用庭
矢野氏
  • どういう暮らし方がいいかはその人によって違うと思うが、私は間・抜け・余白・あいまいさがある住まいが好きである。大森ロッヂに住んでいる方が、会社でコンクリートの閉鎖的なところから帰って、門を抜けて砂利を通って、最後に土を踏んで自分の家に入る、それで自然に自分の生活に戻れるというということおっしゃっていた。
  • ご近所さんの気配や自然が感じられるのが木造の良さ。ここは古い木製建具をそのまま残しており、すきま風や台風の時には雨が吹き込むこともあるが、そういった日常の出来事を不快には感じず、むしろ楽しめる方が住んでいる。
天野氏
  • セキュリティ上はオートロックもないし、木造の平屋で築40年くらいの古い建物なので、女性には嫌われるかと思ったが、実際募集をしてみたら、7割は女性の方が住んでいる。住まわれている方は、私と矢野さんがそうであるように、あまり神経質ではなく、隙間風やご近所の気配が、苦痛にならずに楽しみに変えられるような方という共通点があると思う。
  • 私も前はコンクリートのマンションの10階に住んでおり、ドアを閉めてしまえば完全に外から遮断される状態になるので、例えばご近所迷惑を考えずに大きい音を出したり、寝に帰るだけというような、雑な生活をしていた部分があったが、こちらに引っ越してからは五感がだんだん戻ってくるような感覚があり、朝日やご近所さんの気配で自然に目が覚めることもあり、外の変化に気付けるようになった。
矢野氏
  • ここは管理規則も何も設けていないので、ここに住んでいただける方は大人の方、自然の気遣いがお互いにできる方だと思っている。
天野氏
  • 住まわれている方がおっしゃっていたのは、オートロックなどの防犯設備はないが、音や気配がご近所に伝わるので安心感がある。お隣さんの顔や人柄が分かると聞こえてくる音も騒音には聞こえないし、また、自分自身も相手を気遣おうという意識に変わっていく。
  • 木造の再生を色々手がけたが、木造住宅には交流が生まれやすいという性質があると感じる。
矢野氏
  • 土地をどう考えるかはオーナーによって違うと思う。農地であれば作物を育ててそれを食べて命を育む。庭だったら木や鳥や虫の命を育む。共同住宅だったら、と考えると、住む人の命を育む、これが私の考えでありまた願いである。
会場の様子

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