
21世紀に入り、アジアはそのめざましい経済発展のパワーとともに、「普通の人々」同士の大交流時代を迎えつつある、と言えば少々大げさに過ぎるだろうか。ここ数年のアジア各国間での経済における大幅な相互依存、拡大市場化のみならず、観光客の相互拡大は、増加することさえあれ、減少の兆しはほとんどない。特に中国、韓国、台湾から日本への観光客は増加の一途を辿っている。ようやく、互いの国の普通の人々が、自分の目でアジアの隣国を感じ取る時代が始まりつつあるのだ。
しかし、本当の意味で異文化を理解し交流していくことは、そう簡単なことではない。ビジネスや観光の場だけでなく、実際の生活の場を通じての相互交流や、日本にいるアジアの留学生との交流・支援等こそが、次世代への着実な架け橋になるはずだ、との思いから、草の根レベルでの地道な交流・支援を通じて、アジアの人々の相互理解のコーディネートをしていきたいと設立されたNPO(特定非営利活動法人)が、今回ご紹介する「アジアンロード」だ。JR田端駅より徒歩約10分にある事務所で、理事長の宮秋道男氏にお話を伺った。

理事長の宮秋道男さん 「アジアンロード」の理事長である宮秋氏の以前の職業は、雑誌の編集者。1986年の中国旅行がきっかけで、その魅力にとりつかれてしまい、妻を説得し、翌年中国留学。帰国してからも、日中の架け橋として私にできることは何かと考え、まず教育・福祉関係の領域で、任意団体として少し少しずつ活動を始めた。その後、社会がNPO法人の設立を後押しする時代になってきたので、それならもう少し活動の幅を広げてみようかと、法人を設立した。1999年のことだ。宮秋氏は、設立の経緯をこう語る。
「このNPOは、以前から親しかった留学時の仲間や中国語の勉強仲間で立ち上げました。最初は理事の一人の旅行会社の社長さんの厚意で、新宿区内の彼の事務所に居候していました。でも、人の出入りも多くなってくると、やはり独立した事務所が必要だろうということになり、荒川区に移ってきました。3年ぐらい前です。ここは、JR山手線沿線の田端駅から徒歩圏内ですし、大変便利ですね。
近年、アジアは観光・留学を中心として、どんどん交流の輪が広がってきているんですが、まだまだ先入観や偏見が多い。素直に見れば、もっと魅力的な部分がいっぱいあるのにと思います。日本人には、もし別の国の人間として生まれ育っていたら、という他者に対する想像力がまだまだ欠けているんじゃないか、とも思います。また、現実のアジアは、街も人もどんどん変貌していっています。そのダイナミクスやリアリティを、草の根の交流を通じて感じて欲しい、と活動を始めました」
「アジアンロード」の活動の基本は、大きく国内での活動と海外での活動に分けられる。
1.海外での活動
海外での市民間交流のための多様なツアーやホームステイの企画・実施。海外への専門家(インターン含む)派遣、または留学・語学研修希望者支援。
2.国内での活動
国内における各種交流セミナーやイベントの企画実施、語学教室の開講。また海外からの留学生・就学生の受け入れ支援、彼らの日本での生活上・勉学上の相談・支援。
海外での活動は、四季のシーズンに合わせて行われる企画型ツアーや、北京、大連でのホームステイなど。また昨年2月、内モンゴル(中国)フフホトに日本語学校を開校し、日本からの講師派遣も行っている。実に精力的だ。
「僕らの活動の最大の目的は、何といっても『人々との交流』です。アジアの普通の人々の家に行く、ホームステイするという草の根交流です。今のテレビ的に言うと、『うるるん体験』ですね。夏は、『夏の風』と称して、モンゴルに行っています。これが、なかなか感動的な体験なんですよ。たとえば、今まで大手企業で仕事一筋だった人が、HPでこのツアーを知りこの旅行に参加し、大変なカルチャーショックを受け、その後仕事を止めてしまったということがありました。そういうドラマはいっぱいありますよ。普通、日本からツアーで行くモンゴル旅行は、完備されたキャンプに泊まるんですが、僕たちが企画しているツアーは、本当のゲルに泊まります。トイレもない、電気もない、食べるものも一緒。まあ、普通の日本人なら3日が限度ですね(笑)。でも、先の会社を辞めた彼などは、この体験の時、感動し泣いていたりするんですよ。その後、彼は沖縄で暮らしているようです。世界や人生は決して一元的ではないんだ、ということを実感できるツアーだと思います」
国内での活動もなかなか多彩で、地域の施設を使い行われる各種交流会(新年会、料理教室、気功教室等)や、アジアからの留学生が講師となり運営する語学教室(ハングル語、中国語、モンゴル語)などが活動の中心だ。留学生の支援が活動のメインでもる「アジアンロード」は、その留学生同士のもうひとつの生活の場、交流の場としても貴重な機能を果たしているようだ。
「語学教室は留学生が講師となり、少人数制でアットホームに行っています。頑張っている彼らの力が少しでも活かせる仕事がないかと思い、始めました。生徒はほとんど社会人です。またこの教室を通じて社会や互いの意識の交流もできればと思っています」

アジアが、普通の民間人の大交流時代を迎えたということは、アジアの留学生が大交流時代を迎えたということでもある。現在の世界の留学生の総数は約190万人。その内約7割をアジア人の学生が占める。これは、グローバル化が進む大学側にとっては、まさに優秀な学生の大争奪戦ともなるわけだ。日本が1983年に掲げた留学生受け入れ10万人計画目標は、2000年以降急激に増加し、2003年にクリアしている。その9割以上がアジアからで、中国からの留学生は6割近くに上る。そのほとんどがいわゆる国費留学生ではなく私費留学生だ。当然、彼我の経済事情を考えると、日本での学費や生活費は彼らの肩に重くのしかかってくる。日本に来る留学生の支援や生活上の相談等、これらの事情にも詳しい宮秋氏はこう言う。
「たとえば、中国人にとって、経済的に発展した国としての日本をもっと知りたいという視線は、今でも変わっていません。しかし、本当に勉強したい人、できる人は、アメリカに留学します。よく勉強できる人は中国の大学院に進学する。そしてその次の層が日本に留学し頑張る、という図式があるようです。近年の経済発展により、一定のお金を得た家庭の子供が、日本に留学しに来ている状況がありますね。昔は仕送りなんてありえなかったんだけど、今は少々の仕送りが可能な家庭が多いようです。しかし、日本での生活は依然大変で、勉学とアルバイトで時間に追われ、汲々とした毎日を送っている学生も多いです。アジアからの留学生が、昼間一緒に勉強している日本人学生となかなか付き合えないわけは、ひとえに生活の厳しさにあります。また、日本の学生の生活や社会についての考え方が幼く、ちょっと子供みたいに感じることもあるようです」
マスメディアは、様々なアジアのエンタテインメントやスポーツの交流を通じて、新しいアジアの時代が来たことを喧伝する。しかし、現実に志を持ち日本に学びに来た無数の留学生たちに、日本や日本人は、まだまだ暖かい迎え入れ方を知らない。

まだまだ、活動は離陸半ば。新しく手がけたいことも多いだろう。これからの課題、抱負を聞いた。
「基本的な活動のサイクルや、具体的な交流のネットワークも出来てきたので、これから僕はだんだんコーディネート側に回って、それぞれの現場が独自に動き出していってくれればと思っています。でも、そううまくいくものでもない(笑)。マネジメントは、いつも最大の課題です。東京ボランティアセンターからの派遣の方にも、会計等の業務で協力してもらっています。70代のベテランの方で、大変助かっています。
また、私たちのようなNPOやボランティアの分野でも、大学と提携してインターンシップという形態で、学生を受け入れアシストしてもらうケースは増えています。しかし、現場は常に人が足りないし流動的なので、初めての人が来ても、適切な指示をしていく余裕がない場合が多い。現場に来て自分で考え動ける人は、もうプロですからね。そこがインターンシップ受け入れの一番の課題です」ボランティアは、まさに自発的な意思で参加し活動することに意味がある。しかし、現実の仕事の場には、常に独自のスキル・ノウハウが集積していて、一朝一夕に吸収することは至難だ。NPOマネジメントスキルの、未来への蓄積が期待されるところだ。
昨今、どの地域もこれからの課題に「地域の国際化」をあげている。しかし、もはや従来のお題目のような交流行事や姉妹都市提携だけの横並びの取り組みの時代は過ぎた。もっと市民・民間レベルでの、ユニークで地道な異文化交流・支援への取り組みが、これからの時代感覚として、非常に大事なのではないか。もう、「普通のアジアの人々」が日々観光客として、また留学生として、私たちの目の前にいるのだから。






