街に、ルネッサンス UR都市機構

未来を照らす(22)女優 趣里

URPRESS 2020 vol.62 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


「”自分らしく”を支えに。お芝居を通して、人に寄り添い、つながりたい」

存在感のある個性派女優として注目を集める趣里さん。
長年続けてきたバレエの経験を生かしながら、
ドラマや映画、舞台などで幅広く活躍中です。
役者という仕事を選ぶことになったきっかけから、
現在出演中のドラマについて、これから目指すことまで……
丁寧に言葉を選びながら、表情豊かに語ってくれました。

しゅり
1990年生まれ、東京都出身。
ドラマ『ブラックペアン』(TBS)、『イノセンス 冤罪弁護士』(NTV系)などで注目を集める一方、舞台や映画でも活躍。圧倒的な個性と演技力で存在感を発揮している。
2018年公開の映画『生きてるだけで、愛。』で第33回高崎映画祭最優秀主演女優賞、
おおさかシネマフェスティバル2019主演女優賞、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞に輝く。

演劇が絶望から救ってくれた

役作りで大切にしているのは、“自分がその役の一番の理解者になる”ということです。自分とかけ離れている役もありますが、「なんでこんなことを言うんだろう?」と、その人物に寄り添って深く考えることで、理解できるようになると思います。そうやって自分の人生とすり合わせ、自分の思いと重ね合わせて演じるようにしています。 実は、この世界に入ったのは、自分が演劇に救われた経験があるからなのです。4歳からバレエを始め、15歳でイギリスにバレエ留学。将来は絶対にバレエに携わりたいと励んでいたのが、留学先で怪我をして辞めざるを得なくなりました。それまでバレエ一筋だっただけに、夢も目標も失い、地獄のような苦しみを味わいました。そのときに、母が連れ出してくれたのが、演劇だったのです。

それまでも岩松了さんの舞台などを拝見して演劇の面白さを感じてはいましたが、自分がやりたいとは思っていませんでした。でも、本当に苦しいなかで舞台を見たとき、その瞬間だけは現実を忘れることができたんですね。集中してその世界に入ることで、舞台上で生きている人たちに夢中になり、自分の悩みが少しずつ軽くなっていったのです。そんなことが可能な職業は素晴らしいと改めて思えて、自分も誰かの気持ちに寄り添う作品に関われたらと、役者の道を志すことにしました。

バレエで学んだことを今の仕事に生かして

幼い頃に描いていたのとは違う道に進みましたが、バレエも演技も、お客様が見て喜んでくださるのは同じです。バレエにも表現としてのお芝居がありますし、演技や踊りを通じてお客様とつながったと感じる瞬間の喜びは、2つの世界に共通するものだと感じています。

また、舞台で踊ったり、ミュージックビデオでダンスを披露したりするなどの演舞だけでなく、バレエで鍛えられた精神力や体力は、今の仕事に生かされています。日々のトレーニングが欠かせず、頑張るのが当たり前のバレエの世界。体力が必要なのはもちろん、体に対する気の遣い方や、上下関係も含めた周囲への気配りなど、振り返ると、それらはすべてかけがえのないトレーニングになったように思います。

仕事をするうえで心の支えとなっているのは、イギリスに留学していたときに、校長先生に言われた言葉です。「あなたは、あなたらしく生きていけばいい」という一言が、不安だった私の背中を大きく押してくれました。

もうひとつの支えが、帰国してからお芝居の勉強に通ったアクターズクリニックの塩屋俊さんに言われた言葉です。塩屋さんも海外での活動経験のある方で、「おまえは大丈夫だから、おまえらしくやれ」と何度も言ってくださいました。そのお二人の言葉は、今も「自分は自分だ、頑張ろう」という日々のモチベーションになっています。

ドラマで姉思いの妹役を熱演

7月からTBS系で放送中のドラマ「私の家政夫ナギサさん」で、多部未華子さん演じる相原メイの妹、福田唯(ゆい)を演じています。仕事一筋で家事がまったくできない姉を心配して、大森南朋さん演じる“スーパー家政夫”の鴫野(しぎの)ナギサさんを送り込む、しっかり者の役です。

このドラマでは、草刈民代さんやK-BALLET COMPANYの宮尾俊太郎さんとご一緒できるのも喜びです。宮尾さんには顔合わせのときに「バレエをやっていたんですよね」と声をかけていただいて、とてもうれしかったです。草刈民代さんは以前から舞台を拝見していましたし、同じバレエの先生にお世話になったこともあり、そんなお話もできたらと楽しみです。

家族や恋人、会社の人間関係など、いろんな場面での人と人とのつながりが描かれているアットホームなドラマです。キャスト、スタッフが心をひとつにして頑張っていて、私もドラマに彩りを添えられるよう精一杯演じています。

「私の家政夫ナギサさん」
家事と恋に不器用で仕事に一途な独身女性が、おじさん家政夫を雇うことから巻き起こるハートフルラブコメディドラマ。趣里さんは片付けが苦手な相原メイの妹、福田唯(ゆい)役で出演中。

原作:コミック「家政夫のナギサさん」(四ツ原フリコ)
出演:多部未華子、大森南朋、瀬戸康史、趣里ほか。
TBS系で火曜22時~放送中。

人と一緒にものを作るのが大好き

プライベートでは、根っからのインドア派です。稽古場にいるか仕事の現場にいるか、あとは自宅で台詞を覚えたり、ネット配信のドラマを見たり。休みの日もマッサージに行くぐらいで、ジムなどには行かずにトレーニングも自宅で行います。それも「やるぞ」というのではなく、寝る前にベッドの上でストレッチをしたり、歯磨きしながらY字バランスの姿勢をとったり、料理を煮込んでいる間に腕立てしたり(笑)。

家は一番居心地いい場所ですが、インテリアには全然こだわりません。洋服なども捨てられなくて物は多いほうかもしれませんが、ドラマのメイさんの部屋ほど散らかってないですし、小さな部屋なので家政夫のナギサさんに来てもらう必要はありません(笑)。

イギリス留学中は寮生活を経験しました。4人部屋で、最初は英語がまったくわからず辞書を引いて会話していたのですが、まわりの人が簡単な英語で話してくれて、気づいたら理解できるようになりました。みんな優しくて、とてもいい経験でした。

そういえば、小さい頃に団地の友達の家に遊びに行った経験もあります。公園があって、自転車がたくさんとまっていて、とてもアットホームな雰囲気でしたね。隣近所とのコミュニティーも豊かな感じで、精神的にも物理的にも助け合いが必要な今の時代、改めて見直されるのかもしれませんね。

家でひとりで過ごすのが好きですが、よく友人からは「趣里って人が好きだよね」と言われます。人ってひとりずつ違うので、すごく面白いですよね。自分と世界が違う、と感じる人もいるけれど、だからこそ会話やコミュニケーションで通じ合い、一緒に何かを生み出すのがすごく楽しい。人と出会わなければ自分も前に進めないし、人はひとりでは生きられない。人との出会いは一期一会だと思うので、ひとつずつを大切にしたいと思っています。

見て喜んでもらえる作品に関わりたい

この9月に30歳になります。今回のドラマもそうですが、最近は母親役も増えてきました。でも結婚願望はまだないですね。まずは自分がもうちょっと頑張らなければ、と思っているからかもしれません。

これからやってみたいのは、舞台ではシェイクスピアの戯曲。ジョン・パトリック・シャンリィの「ダニーと紺碧の海」も、演技を始めた頃から憧れの戯曲です。最初に読んだのが18歳の頃で、もう10年以上思い続けています。女性役は31歳の設定でまだまだ先だと思っていたら、あっという間に30歳。ようやく年齢が追いついてきたので、いつかできたらいいなと願っています。

ドラマや映画、舞台、CMなどいろいろやらせていただいていますが、ベースとなっているのは、たくさんの人と一緒にさらなる上を目指しながらひとつの作品を作り、見ていただく方に喜んでいただきたいという思い。日本には素敵な監督さんがたくさんいらっしゃるので、これからはそういう方々とご一緒に作品を作り、日本の作品の素晴らしさを世界に知っていただく仕事に関われたらうれしいです。

【阿部民子=構成、青木 登=撮影】
【スタイリスト=岡村春輝、メイク=須賀元子】
【トップス・スカート LOKITHO/ALPINISME、シューズ quartierglam/Duplex】

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